問題は、これらのさまざまな機能が、自分の家族にとってどのくらい必要なのかということだ。たとえば、写真付き身分証明書がなくても、健康保険証と年金手帳など、複数の身分証明書を持参すればいいと言われたら?
「確定申告をしない人はe-Taxを使わないでしょうし、オンラインサービスのログインにしても、セキュリティの向上を別にすれば、今のままでも特に不便がないというユーザーは多いと思います」と、牟田氏は言う。住民票や印鑑登録証明のコンビニ発行、引っ越しに関連する届け出が一度にできるサービスも、便利といえば便利だが、一般市民にとってはそれほどひんぱんに行う手続きでもない。
「民間利用がどのぐらい広がるかもまだわかりませんし、マイナンバーが見える形で記入された個人番号カードを、ふだん持ち歩いていいものか不安に感じる人も多いでしょう。e-Taxで必要な人を別にすれば、現時点では急いで手に入れる必然性をあまり感じられないかもしれません」(牟田氏)
普及しなければ利便性も上がらない
一方で、民間も含めた利用範囲が今後どこまで拡大するかは、個人番号カードの普及率にかかっている。持っている人が増えれば、サービスの提供者も増えて利便性が高まるし、増えなければその逆だ。ニワトリが先か卵が先か、なかなかにむずかしい。
「本人確認手段としての使用を何らかの形で『強制』するか、免許証や健康保険証などのすでにあるカードを個人番号カードと兼用のものに置き換えでもしないかぎり、なかなか普及する道は見えにくいと思いますね」(牟田氏)
もっとも、個人にとってのメリットは見えにくくても、社会全体の効率化やコストダウンというメリットは予想できる。
たとえば多くの医療機関では、患者の健康保険の資格確認に多大な労力とコストをかけている。個人番号カードのシステムで資格確認ができるようになれば、病院は事務コストを大幅に減らせるはずだ。あるいは、電子証明書を使った個人認証サービスが、なりすましや詐欺の心配のないネットサービスのための、便利なビジネスインフラに成長するかもしれない。