スコットランドだけ「EU残留」の恐れ

国民投票で、特に「離脱派」が多かったのは経済的に苦しい地方部でした。日本と同じく、イギリスの地方経済も疲弊しています。昔ながらの小売店や飲食店はどんどん潰れ、チェーン店に変わってしまいました。EU加盟で恩恵を受けているのは、金融業などが集中する都市部だけで、地方にはメリットがない。「離脱派」の人たちは、そう考えたようです。

しかし、実際には、移民の多くは都市部に居住しており、地方部にいる移民はわずか。「移民が地方経済を疲弊させた」「移民が仕事を奪った」という事実はありません。むしろ移民の多い都市部では「EU残留派」のほうが多数でした。地方経済の疲弊はイギリス経済の抱える構造的な問題なのですが、「離脱派」はこれを「移民問題」にすり替えることで、人々の不安を煽り、結果的に投票で勝利したのです。

EU離脱によるイギリスのダメージは甚大です。単一市場のメリットはあまりに大きかった。国民投票のやり直しを求める世論も湧き上がっています。やり直しが行われるかはわかりませんが、人々の間には「Heart(感情)ではなく、Head(知性)とWallet(損得)で考えろ」という教訓を残したはずです。

イギリスの政治家たちは、ダメージを最小限に食い止めるための交渉に全力を尽くすことになるでしょう。イギリスは交渉上手な国です。ほかのEU加盟国も混乱は最小限にしたいわけですから、詳細決定には時間がかかったとしても、離脱とその後のFTA(自由貿易協定)に準じた新関係の樹立までの「交渉工程表」は、1年以内にも出てくるでしょう。それさえ出てくれば、世界経済は落ち着きを取り戻すはずです。

また「EU離脱」がほかの国々にも波及することはないでしょう。むしろイギリスが痛手を被ったことで、各国の「離脱派」は勢いを失ったのではないでしょうか。