「保険料払わなくても、年金もらえる」

アメリカという「富士山」に一直線で登るため、言い換えれば最短ルートでアメリカに追いつき追い越すためには、まず工場で働く労働者を確保しなければなりません。地方の第1次産業従事者(主に男性)を都市に移動させ、第2次産業の労働力を確保したのです。その象徴が、いわゆる集団就職でした。

あらゆる工場(第2次産業)の理想は、24時間休まずに稼働し続けることです。富士山に早く登ろうとすれば、徹夜で歩き続けることです。従って自ずと長時間労働が好まれることになります。しかも工場労働は、筋力に優る男性に向いた仕事です。こうしてわが国の男性は、とにかく長時間働くようになりました。

もっともその分は、給与に反映されたので、「やりがい」もあったはずです。ただ、1日中働き詰めですから、クタクタになります。すると、どうしても夜遅くに家に帰れば、「飯、風呂、寝る」になってしまう。そこで妻は自宅に待機し、馬車馬のように働く夫の後方支援をしたほうがよいということで、家事や育児・介護を全面的に担当するようになったのです。

こうした「性別分業」は戦後のグランドデザインにマッチした極めて効率的な仕組みでした。そこで、この仕組みにインセンティブを与えようと考え出されたのが、「配偶者控除」(税金軽減)や前出の「第3号被保険者」といった専業主婦優遇策です。この仕組みが完成すると、女性たちはこう感じるようになりました。

「年金保険料を払わなくても年金がもらえるなら、家で子供を育てているほうがトクかもしれない」

合理的な考え方です。誰も専業主婦への特典を変だとは思わなかったのです。

しかし、この仕組みがうまくワークするためにはいくつかの条件がありました。

戦後40年間の経済成長率は実質で約7%。10年の区切りで経済規模が2倍になったのです。50兆、100兆、200兆、400兆といった具合に。それに比例して所得も10年で倍々ゲームのように増えていきました。

企業は成長し、家計は潤いました。みんなが力を合わせて国も“富士山頂”へ一直線にひた走った結果、全員がハッピーになれたのです。それが高度成長の時代でした。しかし、この夢のような高度成長が実現したのは……。

(1)冷戦構造(アメリカは、不沈空母としての日本を庇護)
(2)キャッチアップモデル
(3)人口の増加

という3つの前提条件が整っていたからでした。ひるがえって今はどうでしょう。この3つの条件はすべてなくなってしまいました。80年代後半にアメリカに(一時ですが)追いついてしまった日本は、今や少子高齢化や財政再建など課題先進国となってしまったのです。