ブームなのに減る生産者……
しかし、焼肉店もこの5年ほどで大きく進化を遂げています。例えば、様々な部位の肉をそれにふさわしい食べ方でコース仕立てで提供する店があります。薄くスライスした肉をさっと炙ってすき焼きのように卵にくぐらせたり、甘いタレとともに一口大のごはんを包んだりと、お客を飽きさせません。
あるいは、焼肉とワインとの組み合わせを追求するような店も増えました。さらには、カウンターの鉄板焼と共存させて、焼肉とステーキの両方を楽しめるような店も現れました。中には、回転寿司のように1枚から肉を注文できるというユニークなスタイルの店もあります。焼肉店とはお客が自ら肉を焼いて食べるという極めてシンプルな形態ですが、その範囲を拡張し、深化させながら各店が個性を発揮しているのです。
そんな中、外食関係者から牛肉に関する不安や嘆きを耳にする機会が増えています。それは「牛肉の仕入れ価格が上がりすぎている」という課題です。実際に農林水産省が公表しているデータを見てみましょう。東京市場で取引された「和牛去勢A4」というランクの牛肉1kgあたりの価格は2014年度が2037円だったのが、2015年度には2446円にまで上昇しています。そして今年5月の速報値は2677円とさらに高騰が続いているのです。2014年を100とすれば、この数字が120、131と推移していることになります。
国内の牛肉価格の上昇は生産される肉牛の減少がその大きな理由とされています。牛を育てる農家は、子牛を産ませる「繁殖農家」と、子牛を大きく育てる「肥育農家」にわかれます。その中でも特に繁殖農家が年々その数を減らしているのです。原因は生産者の高齢化や、あるいは2010年に宮崎県で起きた口蹄疫問題や2011年の東日本大震災によって、廃業の道を選択する、あるいは選択せざるを得なかった方が大勢いるためです。