さて、戦い終わって宴が催されたさい、武将たちがそろって韓信に質問した。
「兵法書には、山を右手や背にしたり、水沢を前や左にする、という教えはありますが、川を背にするという教えはありません。なのになぜ、われわれは戦に勝てたのでしょう」
すると韓信、こう答えた。
「いや、これも兵法書にあるのだよ。ただ、諸君が気づかなかっただけの話だ。『孫子』には、〈自軍を絶体絶命の窮地に陥れて勝つ〉とあるではないか。なにしろわが軍は寄せ集め、窮地に置いておかないと逃げてバラバラになってしまい、収拾のつかない恐れがあったのだよ」
それを聞いた将軍たちは、
「恐れ入りました。私どもの遠く及ぶところではありません」
と感服するばかりだった。
韓信と将軍たちとは、同じ『孫子』を読みながら、「読解力」の差によって、活用に雲泥の差が生まれていたのだ。
では、どうしたら彼のような高いレベルでの「読解力」を身につけられるようになるのだろう。
韓信の故事から引き出せる1つの教訓は、何が「動かせない原理原則」で、何が「活殺自在なノウハウ」かを考えるクセを身につける、という点だ。
不動の原則以外の要素を、状況にあわせて柔軟に変化させることで、古今の勝負師は、必殺技を編み出してきたのだ。