「お車は何にお乗りですか?」
ヨーロッパにおいて、チャリティは文化であり、活動もさかんだ。「相続税を払うよりチャリティのほうがまし」という考え、あるいは名誉欲を求めるビジネスセレブがいる一方で、ヨーロッパの富裕貴族の慈善活動はあまり話題に上らない。その理由は、彼らは人目をひくことを極端に嫌うからである。
ベルギーの投資会社アータルの元オーナー、ガイ・ユーレンス氏は、恵まれない子どものために学校をつくるなど、世界各地でひっそりと、誰にも気づかれないように慈善活動を行っている。アータル日本法人代表として10年ユーレンス氏と一緒に仕事をしたSTRパートナーズの田崎正巳氏は次のように言う。
「男爵の称号を持つユーレンス氏は、『お車は何にお乗りですか?』と質問されると、困った表情を浮かべた後で、自分の持っている何台もの車の中から、控えめな車を1台、『BMW、ミドルクラス』と、小さい声で答えます。M5という特別仕様車であることは決して言いません。
10年、彼のそばで過ごしましたが、彼が自分のチャリティ活動について話をしたことは一度もありませんでした。素振りさえ見せなかった。私がこのようなメディア上で彼の名前を紹介することも、彼の本意ではないでしょう。それは心の問題であり、人に聞かせるべきものではない、と彼が思っているからです」
では、なぜユーレンス氏がチャリティを行うのかといえば、それは、ルイ14世の時代まで、一般市民は貴族に雇われており、その頃の精神、“ノーブレスオブリージュ(高貴なる者の義務)”が、ユーレンス氏のDNAの中に脈々と息づいているからなのである。