エンジンの開発に役割を果たした先進技術とは
2009年初頭に開発を始めて以来4年余りの年月のあと、この発想から生まれた新型ディーゼルエンジンが完成、2014年モデルの60/70/80シリーズに初めて搭載された。生産はボルボの主力エンジン工場シュブデ(首都ストックホルムから西南西約260キロ)。フォードグループからは独立した、文字通り自社開発自社生産そして自社モデル専用のディーゼルエンジンとなる。
ガソリンエンジンとの可能な限りの共通化という発想により、このディーゼルエンジンが共通で使用している部品は全体の25%に達しているという。加えて、完全な共通使用にはなっていないものの、ガソリンエンジンと類似している部品の割合は50%。つまり、全体の4分の3の部品が共通あるいは類似になっている、ということは、製造段階でも共通の生産設備が活用できる余地が広がり、生産効率の向上とコストダウンを同時に図れることを意味している。このおかげで、ディーゼルエンジン仕様モデルはガソリンエンジン仕様に比較してわずかに25万円の価格上昇(日本仕様車)にとどまり、国内市場での競争力向上にも寄与している。
マツダのディーゼルエンジンもそうだが、従来のディーゼルエンジンの圧縮比は高出力を得る目的から16から18前後という高い範囲に設定されていた。そのためシリンダーブロックの素材はガソリンエンジンに使用されているアルミではなく、高い圧力に負けない鋳鉄を使うことが一般的だった。ボルボもマツダもともに、それぞれ独自の開発手法で可能な限り圧縮比の低減を図ることによって、鋳鉄からアルミへの転換に成功した。このおかげで、ボルボのディーゼルエンジンのシリンダーブロックは、ガソリンエンジンのそれと基本構造が同じになっている。
2000年前後の数年間、同じフォードグループに属していた両社が、世界的な経済後退を招いたリーマンショックを契機に、それぞれグループからの独立を模索し、企業の生き残りをかけた独自製品の開発に邁進するプロセスで、新しいエンジンの開発をその中核に据えたことは、実に興味深い。しかも両社ともビジネスの規模は決して大きくはない。当時のマツダは年間販売台数120万台から130万台、ボルボに至っては40万台前後。
独自のエンジン開発にあたって、マツダの場合には当初ガソリンエンジンの開発から始めている。並行的に開発していたとはいえ、ディーゼルエンジンの製品化時期は、ガソリンエンジンよりもあとに置いていた(実際には、ディーゼルエンジンの開発が順調に進み、両者同時に製品化し、2012年2月に発売している)。ところが、ボルボは開発の効率の最大化を狙って、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの同時開発という大胆な手を打つ。生産の規模がマツダの半分にも満たないということがその理由のひとつだったのだろうが、見方を変えると、それだけの小さな規模だったからこそ、大胆な開発手法をとるという発想が生まれたのかもしれない。人間万事塞翁が馬、ということか。
ボルボは、この新しいディーゼルエンジンの開発に大きな役割を果たした先進技術のひとつとして、新開発の燃料噴射装置をあげている。その名称はI-ART(Intelligent-Accuracy Refinement Technology)。デンソーとの共同開発だという。曰く、このデバイスは1回の爆発・燃焼行程で最大9回の燃料噴射ができる能力を備えているため、四つの気筒それぞれ個別に、燃料噴射のタイミングや噴射量を調整してその燃焼の最適化が図れる。