30円の焼き栗に「んー、高い。買わん」
【CA(1)】お叱りも受けますが、稲盛さんは、現場の社員一人一人に寄り添ってくれます。中国を往復するチャーター便に稲盛さんが搭乗したときのことです。お客さまへの感謝の気持ちを表した社員手作りの横断幕を空港で掲げてお見送りをしていました。それを見た稲盛さんは、「ありがたいね」と手を合わせていました。成田到着の折、私はお客さまにお礼のアナウンスをしました。(破綻で)ご迷惑をおかけしたことを忘れず頑張っていますと。途中、感極まって涙してしまいましたが、「いいスピーチだったよ」と肩を叩いて褒めてくださいました。
【販売】稲盛さんが空港へ赴いたときは、到着するとすぐカウンターに直行し、お客さまに「ありがとうございます」と挨拶をして回られます。またスタッフにも「みんなが精一杯やればJALは再生できる」「ありがとう」と握手をして回ります。何より「現場主義」で人との出会いを大事にする姿勢に感銘を受けました。お供していると稲盛さんの意外な面を見ることもあります。中国・大連訪問時、地元市場で焼き栗か何かのお店を見つけ、稲盛さん自ら値切り交渉を楽しまれていました。いよいよ最終段階となったとき、腕を組み、10秒ほどジッと目を閉じ熟考した後、「んー、高いなぁ。買わん」。結局お買い求めにはならなかった。日本円にして30円程度のものであったと思います。買わないと決めたとき私は背筋がゾクゾクとしました。30円でも数百億円でも、その価格に見合う価値があるものかを真剣に考え、勝負していると思ったからです。凄みのようなものを感じたんです。
【CA(1)】半面、機内で稲盛さんは食後のデザートを見て「ドーナツだ!」とあえて子供のように大喜びして周囲を和ませていました。とてもお茶目です。
【専務(京セラ)】面白いエピソードですね。厳しい一面もあるけれど、稲盛さんは人を愛し、労うことを忘れませんね。
【整備(1)】ご存じの通り、破綻前の整備部門はとても無駄が多かった。整備が変わればJALが変わると稲盛さんも考えていたのでしょう。会議でもしばしば目が合い、「おまえが頑張れ」と無言で叱咤激励を受けた気持ちでした。