ほかにも中国には「時計やハンカチは(不吉な意味があるので)贈らない」などのマナーもある。プレゼントは大きく目立つものがよいとされる風潮があり、日本式に「つまらないものですが」などと謙遜する言葉は言ってはいけない。これらは「知っていればできる」基本的なマナーであり、日本人には比較的理解しやすいといえる。

中国と同じく韓国も日本にとっては身近な国。前出の糸木氏は、かつて駐在した9カ国のうち、最も「話が通じやすい」のが韓国だったという。韓国も中国同様、酒の席でのマナーがあり、韓国の場合は「目上の人の前では横を向いて酒を飲む」などの決まりごとがある。相手の名前を韓国語で呼ぶときには「朴さん」「金さん」ではなくフルネームで呼ぶのが礼儀で、かつ役職もつけて呼ぶことが一般的だ。

韓国社会で特有なのは肩書が重要視されること。年齢がある程度上がったら世間体を気にして「部長」という役職を与えることが多い。しかし、社内の肩書と社外的な肩書は使い分けているという。また、上司と部下、大学の先輩・後輩などヒエラルキーがはっきりしていることも、この国の大きな特徴だ。

「形」にこだわる傾向が強く、以前、社長に就任した糸木氏が安いコーヒーショップに入ろうとしたら「社長なんですから、こんな安い店に入らないでください」と部下にたしなめられたとか。「かくあらねばならぬ」という意識を上にも求めるのが韓国社会なのだ。

とはいえ、糸木氏はわずか2年間の駐在で韓国社会に溶け込むための努力を惜しまなかった。

「日本人は何を考えているのかわからない」と思われがちなので、積極的に現地メディアに露出し、オフのつき合いで現地社員との親交を深めた。最初は日本人社長をどちらかというと冷ややかな目で見ていた韓国人スタッフだったが、最後には「日本人社長も悪くないですね」と言われるほどの信頼を得たのだ。そんな糸木氏は語る。

「型どおりのマナーも大切ですが、まずはその国の文化を尊重して入り込んでいくこと。そして相手のハートをつかむことですね。そうすることでよい人間関係を構築できる。マナーはそのための第一歩にすぎないと肝に銘じておくべきでしょう」

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