そう語る井上が、数ある孫語録のなかで一番好きな言葉として挙げたのが、「愚直になれ」である。孫は、事業目標を達成し、その分野でトップになったときでさえ、「男は賢いだけじゃだめ。愚直なまでに掘り下げていかんと大きくなれん」と自分を戒めるという。
「この言葉こそ、孫さんの本質だと私は思います。ナンバー1になるには、高い志を持ち、ひたすら愚直に努力するという意味で」
では、井上にとって孫とはどんな人物なのか。そう尋ねると、井上の口から「橋本五郎」という人物の名が挙がった。ソフトバンクの草創期から出版部門の責任者として雑誌や書籍を手がけたものの、肝臓を患い急逝した親友だった。その橋本が井上に生前語った孫の人物評こそ、井上の回答であるという。それは──。
「アナログの心を持ったデジタル人間です」
(敬称略)
1947年、岐阜県生まれ。早稲田大学中退。雑誌記者を経て作家・翻訳家に。87年に雑誌の企画で孫正義に初インタビュー。以来20数年、独占取材だけでなく、孫が通った小学校~大学時代の恩師や友人、知人、起業後の社内外の関係者などに対しても、日本・韓国・中国・アメリカ各地に赴いて取材。その膨大な取材の「記録」は、『志高く 孫正義正伝 完全版』『事を成す 孫正義の新30年ビジョン』『孫正義 世界一をめざせ!』などの著書に描かれている。