ただ、「取締役が不当に賄賂を得たという事例は、たいてい会社法960条の特別背任罪に該当する。特別背任のほうが構成要件が広いため。よって結局は、すべて特別背任で立件されているのが実態」(中村弁護士)。

その結果、この会社法967条は「適用例がほとんどなく、死んだ法律」(同)になっているのだ。

特別背任とは、株式会社の取締役などが、いわば会社を裏切ることで、会社の財産を減らしたり、本来は得られるべき会社の利益を得られなくし、会社に損害を与えたりする犯罪行為である。

必ずしも取締役ら自身が利益を取得しなくても成立する点で、業務上横領罪(刑法253条)とは異なる。

それでは、役員の下で働く会社従業員が、取引先から不正なリベートやコミッションなど、「袖の下」を受け取る行為は、収賄ないし特別背任に該当しないのだろうか。


公務員以外で収賄罪が適用される地位

「会社法の特別背任や収賄といった罪の主体として、従業員は指定されていない。部長といった管理職が取締役などを兼務しているのなら別だが、通常の従業員にまで、特別背任や収賄の適用は拡張されない」(同)

それでも、刑法上の背任罪(247条)は、従業員の「袖の下」受け取り行為にも可能性はあるという。また、会社内部の秩序や風紀を乱したとして、就業規則に反することを根拠として、解雇をはじめとする懲戒処分が科される事態も考えられる。

もちろん、たとえばお中元やお歳暮など、儀礼的・形式的な意味合いで品物を受け取ることに法的な問題はない。とはいえ、高価な金品の授受には要注意。

「李下に冠を正さず」だ。

(ライヴ・アート= 図版作成)