中国とアメリカが参拝を非難する理由
ただ、問題化したといっても、この当時は国内問題だった。しかし、78年に当時の靖国神社の宮司によってA級戦犯が密かに合祀された。A級戦犯とは、日本を戦争に導いた指導者として東京裁判で罪に問われた人たちのことだ。そして翌年、共同通信と朝日がこれをスクープした。ここからリベラル派の攻撃が激化したが、それでも海外から抗議はこなかった。
国際問題化のきっかけは、85年の中曽根康弘総理の参拝だ。中曽根総理は終戦記念日の公式参拝を事前に表明。それに対して中国外務省は公式に非難声明を発表した。これを機に、総理の靖国参拝、さらにA級戦犯合祀が外交問題に発展したのである。
靖国は、国内におけるイデオロギー対立の一大争点となってしまう。リベラルメディアは中国まで行ってコメントを求め、キャンペーンを張る。また、靖国参拝や歴史認識に関する閣僚の失言でも攻勢を強める。靖国参拝は一種の「踏絵」と化して、中曽根総理以降はしばらく総理の参拝が途絶えた。
その後、96年の橋本総理、01年以降の小泉総理、そして13年の安倍総理と、総理が参拝するたび中国から抗議がきて日中関係は悪化した。
中国は、なぜ靖国参拝に抗議をするのか。基本としてA級戦犯合祀の問題があることは間違いないが、背景にあるのは中国自身の国内政治である。実は中曽根総理はいったん公式参拝した後、参拝をしていない。自分が参拝すると、仲のよかった改革派の胡耀邦(こようほう)総書記の立場が中国国内で悪くなることを憂慮したからだ。かつては中国にも、胡耀邦のように靖国問題をスルーしてもいいという勢力がいた。しかし、胡耀邦の失脚後、そのラインは途絶えてしまった。その後の指導者は、保守派に配慮して抗議をせざるをえない立場にいる。靖国は中国の国内問題なのだ。
一方、アメリカはどうか。アメリカにとって日本はかつての敵国。今は同盟国でも、先の戦争は正しかったという右派の歴史認識は絶対に認められない。戦争責任の罪を負ったA級戦犯が合祀されている靖国神社に総理が参拝することに、いい顔はしないのである。
中国やアメリカにはこうした事情があるので、国の代表が戦没者を慰霊するだけだと説いても通じないのだ。