10年後、資産が10倍になったら

さて、情報を集めたら投資すべきかどうか結論を出さなければならない。それから何が導き出せるのか考えてみよう。考えるときにはきちんと整理して考える癖をつけること。これは新しいもの、これはちょっと違うもの、これは方向転換、といったふうに。新しいものや違ったものはいずれ大きな結果をもたらす。いろいろな見地から物事を考える習慣をつければ、誰よりも早くよい兆しに気付き、買うべきタイミングも、売るべきタイミングもわかるはずだ。

大きな武器になるのは思考法である。私はオックスフォード大学で哲学を勉強したが、そのときに抽象的な思考法を教えられ、ずいぶんと思考力が鍛えられた。思考法には主に2種類ある。事実から結論を導く帰納法と論理から結論を導く演繹法だ。投資家にとってはどちらも重要である。私はこの思考法によって「株式が強いときは商品市場が弱く、株式が弱いときは商品市場が強い」理由がわかった。過去のマーケットを観察することで、株式市場と商品市場の間で、上昇トレンドが入れ替わることに気付いた。過去の例でいえば、15年から23年程度のサイクルで交代が起きていた。

私は純粋な論理を基に考えることで、この理由に気付いた。メーカーを例に考えてみよう。原料価格が下がれば、メーカーの利益はその分増える。つまり株価も上がる。逆に原料価格が上昇する局面では、利益が減って株価は下げやすい。この関係があるから、株式が強い時期は商品市場が弱く、株式が弱い時期は商品市場が強くなるわけだ。このように、哲学的な思考法を身につけることで、世界で起きていることを冷静に正しく理解できるようになる。

これまで述べてきたことをあなたが実行したとしよう。10年後、あなたの資産は10倍になったので、今度は売ることにした。そのときが危険なのである。多くの人が勘違いしている。何もしないことが一番賢明という場合が時としてあるのだ。類いまれな成功を収めた投資家たちは、実は大半の時間をなにもせずに過ごしている。株を買ったら10年間は何もしない、事の成り行きを、世の中の変化をただ見守るのである。

大金を手に入れたいなら分散投資に抗うべきだ。投資は分散すべきだとアドバイスを受けることが多いだろう。しかしそれでは破産はしないものの、大金も手にできない。1970年も一次産品を買って10年間保有し、80年にそれを売って日本株を買い、90年にそれを売ってテクノロジー関連株を買い、2000年にそれを売っていたら、あなたは今頃大富豪になっていただろう。70年に投資を分散していたなら、ここ30年、ちっとも儲からなかったはずである。分散投資は安全だが、リッチにはなれないのだ。

だが先にも言ったように、私の言うことに耳を貸さないでほしい。あなた自身が知っていることをひたすら追い続けることが成功の近道なのだから。