「沈黙は金なり」人生を変える口ぐせ

ちなみに、この40代の女性の上司はその後、昇格することができていない。こういう人は、権限を権力にすり替え、自分の身を守ろうとする傾向がある。その権限を、状況しだいで強くしたり、弱くしたりする。部下を脅したり、自分に責任が及ばないようにするのだ。そのあたりは、実に巧妙で、老かいだ。

こういう上司と「じっくりと話し合えば、分かち合える」と考えることは避けたほうがいい。そもそも、部下と話し合えるだけの経験や力がないのだから。悟りや達観も、組織の中で生きていくうえでは大切だ。会社員は「話し合い」をすることが尊いのではなく、損をすることなく、活躍していくことこそが大切なのだ。

一方で、落ちこぼれる人は、ささいなことでも言い返したり、意味のない議論をしようとする。そして、上司から反撃を受ける。人事評価で低く扱われたり、不本意な部署に異動させられたりする。

つまり、「その後」を考える力がないのだ。「こういう発言をしたら、相手はどのように反応し、状況はどうなるだろうか」と具体的に考えることができていない。

いい例が出版界の“名物”ともいえる、フリーライターが出版社の編集者に送りつけるメールだ。原稿のやりとりなどを巡り、意にそぐわないことがあると、感情にまかせ、メールを送信する。何かをいわんとしようとするのだが、編集者はその文面が理解できない。

それなのにフリーライターは勝ち誇ったような表情をみせる。さらに、盛んに編集者のことを批判する。その結果、編集者との関係が途切れ、仕事を失う。この繰り返しで、年収200万~400万円を30~50代になっても推移し、いつしか廃業する。「その後」を考えていないのだ。こういう人たちを筆者は、この20年で数えきれないほどに見た。

思慮深く、沈黙を守り、反転攻勢をはかる人は得てして出世する。沈黙を守ることができずに、思うままにまくし立て、相手を批判した挙げ句、苦しむ人がいる。

沈黙は金なり、口ぐせは人生を変える、のだ。

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