2005年5月、社長に就任した。業界の会合で、伊勢丹の武藤信一社長と話す機会ができる。高校の4年先輩だとわかり、親しさが増す。百貨店の行く末に危機感を抱いているのは、自分だけではなかった。武藤氏も、デフレの長期化、国内人口の減少、インターネット取引の拡大など、越えるべきハードルの高さを感じていた。
また、「それでも百貨店という業態は、日本ではなくならない」という点でも、一致した。そこから、経営統合・合併の話が進む。規模の拡大も意味が大きいが、互いの強みと弱みが補完関係にある点が、最大の理由だった。
おっとりした企業文化の三越の面々は、積極的で主張が明快な伊勢丹に「のみ込まれそうだ」と懸念した。「三越のいいところが消えてしまう」との声も出た。だが、それは違う。本当にいい文化、いい伝統なら、新しいものが入ってきても、壊れない。
三越には、1904年に設立された前身の三越呉服店で専務を務めた日比翁助氏の『商売繁盛の秘訣』という伝統の書がある。全8編、「顧客満足重視」の教えが貫く。そのなかに、「顧客が品物を買う以外の要求に応えよ」ともある。たとえ苦情でも、きちんと応え、「防微敝」を堅持せよ、との教えが、そこには込められている。
1949年、東京都生まれ。72年東京大学法学部卒業、三越入社。本店副店長、本社業務部長、経営企画部長などを経て、2005年社長就任。08年伊勢丹と経営統合、持ち株会社「三越伊勢丹ホールディングス」設立、社長に。12年より会長。