なぜ優秀な経営者はハイブリッド型なのか

一方、短期集中派が出世に不向きかといえば、そんなことはない。

ソフトバンク創業者・社長の孫正義氏は学生時代に「音声付き電子翻訳機」の商品化を思いつくと、すかさず通っていたアメリカの大学でコンピュータが専門の教授を探して、プロジェクトチームを組み、一気に完成させた。さらにその試作機を持って帰国した孫氏は売り込む先をシャープに絞り、誰がキーマンかを調べ上げると、当時専務で、「電卓の生みの親」といわれた佐々木正氏に直談判。1億円で契約し、それがその後の起業の元手となった。まさに電光石火の早業である。

いうまでもなく経営はスピードが勝負。トライ&エラーは必要だが、成功を収めるには、エラーを最小限にし、成功までの時間短縮が重要だ。出世の条件にもそうした価値観が影響を与えている。これまで100人以上の日本のビジネス史に残る社長に取材したジャーナリストの勝見明氏はこう語る。

「優れた経営者は、基本的にコツコツ的な積み重ねのなかで、ここがチャンスとみたら短期集中的に攻め込むことが多いです。(前出の)孫さんにしても大学時代に『毎日、発明のアイデアを3つ考える』ことをノルマにしてそれを欠かさなかったからこそ、あの音声付き電子翻訳機は完成した。つまり、コツコツがなければ、すぐにソフトバンクが創業されることもなければ、その後の急速な成長もなかったのです」

楽天会長兼社長の三木谷浩史氏もコツコツ+短期集中で同社を飛躍させた。

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毎日コツコツ派

「楽天が急成長したきっかけのひとつが、出店料を固定制から従量制へ切り替えたこと。サーバー拡充などシステム投資のための経営判断でしたが、当然出店者の反発が予想される。でも、三木谷さん自身がふだんから地道に全国を営業で歩き、出店客の広がりを肌でわかっていたから決断できた」(同前)

平凡な経営者なら判断に迷い機を逸したかもしれない状況なのに、さっと判断できるのは「脳の出来」も関係あるかもしれない。脳科学者で諏訪東京理科大学教授の篠原菊紀氏は解説する。

「羽生善治さんなどプロ棋士は次の一手が閃いて、やる気が上がることがあります。このとき脳の線条体が活発に活動します。彼らは過去に何千何万の指し手を体験したり研究したりするなかで最善の一手を見出す。同じように優秀な企業の社長ほど豊富な経験をもとに直観的な経営判断をしているはず」

「棋士脳」の経営者は日々のコツコツを蓄積し続けることで、「ここぞ」という場面を素早く察知し一気呵成に力を発揮する仕事のコツを体得している。

「不確実性の高い現代、コツコツと短期集中のどちらか一方の能力しかなければ、出世するのは難しいのかもしれません」(前出・勝見氏)

(小倉和徳、町川秀人、若杉憲司=撮影 ロイター/AFLO=写真)
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