「お茶のコーラ」で世界に進出

(上)木村さんが手がけたヒット商品の数々。ほかにも「富士山サイダー」「福招きソーダ」など多数のユニーク商品が。(下)1968年の商品ラインナップ。ラムネのほかコカ・コーラ打倒を目指したという「Cハンター」など14品目が並ぶ。

単に「おいしくない商品」を作るだけではない。ペットボトルが主流ならばガラス瓶を採用する、量が少なくて高価な農作物を原材料に使う、値崩れするスーパーには地サイダーを売らない、静岡県内でしか手に入らないようにして土産物として希少価値を出すなど、対立軸は無数にある。

ただし、大ヒットが出ても単品生産に偏ることは決してしない。一般的なラムネやソーダを製造してスーパーにも販売するし、大手の下請け生産もこなしている。創業以来、多品種の製造販売を手がけて生き延びてきた木村飲料のDNAだ。小さな失敗は数知れないが経営を揺るがすほどにはならない。だからこそ、遊び心溢れる商品を次々に生み出せるのだ。

10年には「カレーラムネ」を上回る人気商品が誕生した。静岡名産のお茶を加えた緑色のコーラ「しずおかコーラ」である。こちらはユニークなだけでなく味も良い。

「子どもの頃から寿司屋で出てくるコーラに不満でした。こげ茶色のコーラは日本食に合わないからです。日本人はやはり緑茶でしょう。いま、『しずおかコーラ』は日本食ブームにのってシンガポールやマレーシア、オーストラリアなどにも輸出されています」

今年は、地元の富士山が世界文化遺産に登録されたのをきっかけに「富士山サイダー」がヒット。さらに、「山頂の雪解けを表現」したという白色の「富士山頂コーラ」も出し、こちらも快進撃を続けている。

当然ながら、木村飲料の成功は業界で話題になり、同様の地元風ユニーク商品で追随する他社も少なくない。しかし、木村さんはまったく意に介していない。

「真似をされても構いませんよ。私たちは次の高みを目指すだけですから。40代までは私も『正解は外にある』と思っていました。でも、答えは自分の中にあるのです。子どもの頃のいたずら、今まで出合った世界の飲料、先祖や親の苦労。すべてがノウハウとして私の身に入っている。そこに光を当てると、誰にも真似できないアイデアが次々と生まれてきます」

大手企業の逆を行く、小さなリスクを取り続ける、自分を信じて外ではなく内側に光を当てる。木村飲料のラムネには、真に独自性のある商品を生み出す秘訣が詰まっている。

(永井 浩=撮影)
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