日本人以上に中国人を愛する

私は30人の幹部社員を集めました。このうち日本人は8人。ほかは現地採用の中国人です。そして平和堂の創業者である夏原平次郎会長の写真を見せ、会長が長沙市の名誉市民賞を受賞した経緯を説明したのです。

「なぜ、平和堂がこの長沙市に進出したのか。それは金儲けのためではありません。商品が豊富にあり、日本流の『おもてなし』の心があり、楽しい買い物ができる。そんなお手本となる百貨店をつくってほしい。湖南省政府からそう要請を受けたからです。この写真は、その功績から会長が名誉市民賞を授与されたときのものです」

念頭には、塾長のフィロソフィーの中核をなす「利他の心」がありました。もし平和堂が金儲けだけを考えていれば、社員も「それなら、自分にはいくら分け前をくれるんだ」と不満を持つはずです。拝金主義では人を説得できません。反日感情が高まっているこの状況では、なおさらです。納得してもらうには、進出の目的は、利己ではなく利他の心だと説明する必要がある。そう考えました。

事実、平和堂は湖南省で最も信頼性が高く、サービスのよい百貨店として認知されています。また地域に診療所をつくるために、この5年間で約3000万円を寄付しています。それは「利他の心」によるものです。

そしてもうひとつ、私が伝えたかったことは、「会社は社員を幸せにするためにある」という塾長のフィロソフィーを、平和堂が実践してきたことでした。

平和堂は、これまでにたくさんの中国人社員を研修生として日本に招いています。歓迎会を開き、カラオケで一緒に歌い、日本人社員と同じか、それ以上に大切に思ってきました。

中国では、従業員は簡単に会社を見限ります。このため離職率が極めて高い。その中国にあって、社員を手厚く登用した結果、幹部クラスの約半数が定着してくれていました。高い報酬を用意するだけでは、こうした結果は得られません。だから、私はこう続けたのです。

「みなさんと一緒になって頑張り、お客様がたくさん来てくれる店になりました。それなのに、こんなことで店を壊されてしまって、私は本当に悔しい」

すると、幹部たちは、涙を流しながら、こう言いました。

「社長、安心してください。われわれが頑張りますから。もう一度、立て直しましょう」

(上)修復作業を終えた平和堂百貨店の全景。(下)1カ月半ぶりの営業再開を前に、緊張した表情で朝礼に臨む従業員。10月27日。

私は3つの店舗でも同じ話をしました。従業員たちは力強く再起を誓ってくれました。ある女子社員は、私が握手を求めると、中国語で「頑張ります」と言いながら泣き崩れました。そんな姿を見て、私は盛和塾での勉強が、ようやくひとつ稔ったことを実感したのです。

3つの店舗での被害総額は、テナント部分を含めると約35億円に上りましたが、撤退の不安を払拭するため、約2カ月間の休業期間中は、従業員には給与を全額支給しました。今回の暴動が原因で辞めた従業員はひとりもいません。今年には同じ湖南省で4店目の開業を計画しています。

(山田清機=構成 永井 浩=撮影 共同通信、時事通信フォト=写真)
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