部下のクビから下に刺さる言葉とは
読んだ本の冊数を競うなど愚の骨頂。凡庸な本をたくさん読む時間があったら、“古典”を重読する。すると、初めて読む内容ではないのに、不思議と感覚がリフレッシュし、ほかの勉強や社会での経験を重ねるにつれて、新しく得るものがある。そう小宮氏は語る。
「時代を超え、多くの人に読み継がれてきた本を重読することによって自分の考え方を高め、確認することができるんです。それにより、本物のバックボーンができる。哲学とは、是非・善悪の判断基準です。私は多くの経営者と接していますが、やはり長期的に会社や組織を繁栄させている人は自分の考え方がしっかりしている。つまり、正しい生き方を持っている。私の言葉でいえば“人物力”のある人なのです」(小宮氏)
これまでスキルを磨きあげ業績もあげてきたにもかかわらず、リーダーとして失敗する事例をよく見聞きする。
「原因のひとつは、スキルに頼りすぎて、それに溺れてしまい、部下もスキルで動かせると思ってしまうこと。スキルで部下は動くと思っている節があるのですが、それで動いたら誰も苦労はしません。大切なのは『指揮官先頭』の意気や覚悟。部下に背中を見せる人に部下はついていく。あの山本56の有名な語録『やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ』の通り、率先垂範する覚悟が今まで以上に40代に不可欠なものになるでしょう」(小宮氏)
ひとくくりにはできないが、リーダーとして成功しない人の共通項は「人間の薄っぺらさ」だと小宮氏はいう。
前出の“古典”をテクニックや世渡りの本として読むのではなく、自分の心に染み入るように何度も何度も読み込み、そして自己を反省する。そうしたことに多くの時間を費やした人物ほど、40代のリーダーとしての素養を獲得するというのである。
「腑に落ちる、という言葉があります。心から合点がいく。納得する。腑というからには、内臓です。英語でいえば、ハートに突き刺さるといったことでしょうか。腑もハートも、首より下。小器用で頭のいいリーダーというのは、頭で考えてしまうけれど、そうじゃない。人を動かす部分というのは理屈ではありません。“古典”を重読している人物は、いざというときの言葉の選び方も違うし、常に覚悟と信念に基づいて動いている。だから、部下に教え込んだり管理したりしなくても、人はついてきます。武士は4、5歳から『論語』を毎日素読するから人としてのバックボーンがあり、20代の若さで大将として大勢の部下を堂々と率いることができたのです」(小宮氏)
ITの技術は日進月歩。そうした「技」系の最新事情は20代など若い世代のほうが腕もいいし、勘も働く。では、40代はどうすればいいのか。
「古典重読で、人間の深みのようなものを積み重ねていくことでしょう。読めば読むほど、そういうものが体からにじみ出てくる。でも、努力を怠れば、深みもすごみもない、ただのオジさんに成り下がってしまいます」(小宮氏)