おなかが空くと、記憶力は高まる?
【岩波】率直な質問なんですが、一番簡単に記憶力を高める方法って何なんでしょう?
【池谷】さっきもお話したとおり、やっぱり「連合性」ですね。その中でも、何に結びつけて覚えるのがいいかというと、自分自身の経験とか身の回りで起こったこと、あとは知人とか。それから、悲しいかな、下ネタへの連合も、けっこうよく覚えられます(笑)。
【岩波】へえー、それはなぜでしょうか?
【池谷】やっぱり、本質的に生命の生存に根ざしてるからだと思いますよ。「連合」という話からはちょっと外れますが、お腹が空いたときって記憶力が高まるのをご存じですか? もちろん、減りすぎていて餓死しそう、みたいなときはダメですけど。ふだん普通に三食ご飯を食べている人が、夕食前にお腹空いたなっていうぐらいのときって、めちゃめちゃ記憶力が上がる。
これは、胃から出る「グレリン」というホルモンの効果によるもの。簡単にいうと、お腹が空いたらモノが食べたくなる、食欲を増してくれるホルモン。記憶を司る脳の海馬にも、この受容体、つまりアンテナがある。 ということは、もちろんグレリンを注射すると記憶力は上がります。まあ、そもそもお腹が空けば勝手に出るので、注射する必要もないのですが……。つまり、僕らが知らないうちに、毎日3回、記憶力が高まる時間帯が訪れているというわけです。
【岩波】じゃあ、その時間帯に意識的に暗記の勉強をするようにすると……。
【池谷】効果的でしょうね。なんとなく、夕食をたらふく食べて満たされたあとに勉強しても、あまり覚えられない気がしませんか? よく僕は「ライオンメソッド」といっているのですが、ライオンがどういうときに記憶力が高まるか考えてみてください。お腹が満たされて木の下でぐうたらしているときに記憶力を高めてもまったく意味がないでしょう? でも、狩りするときは、あっちにいったら獲物がいるとか、こっちにいったら崖があって危ないとか、覚えておかないといけないことがたくさんある。
そもそも狩りをするときはお腹が空いているときで、お腹が空いているときには自然と記憶力が高まる。結局は、生命的危機感ですよね。