ではどうするかというと、貴重な卵子をしっかり生き延びさせるという戦略をとる。子どもによい遺伝子を伝えられる健康なオス、あるいは子どもが育っていくのに必要な資源をたくさんもっているオスを選ぶのである。
ここまできたら「女は上書き・男は別名保存説」の立論までは間近である。男性が別れた彼女と何かの拍子に一夜を過ごし、それが彼女の妊娠につながる可能性は、おそらくゼロではない。ならば、別れた彼女のことも忘れずにそんな機会を待っていたほうが、より多くの子を残せるだろう。一方、女性の場合は、別れた彼氏とそんなふうに一夜を過ごしても得にはならない。元彼が彼女を経済的に支えたりして子育てに貢献することはまずないだろうし、遺伝子だけを求めるならば、彼より良質な相手は比較的簡単に手に入るだろうからだ(男性は結婚相手以外の女性には、あまり高い資質は求めない)。
遺伝子をより多く次世代に残すという点から眺めると、別れた相手と再び会うことは男性にはプラスに働く。なので、男の脳は別れた相手をいつまでも覚えているように進化した。一方、別れた相手と再び会うことのメリットは女性にはない。なので、女の脳は別れた相手を素早く忘れてしまう――。
あくまで2つの性の根本的な違いから導いた仮説だが、みなさんが何となく感じている「あるある」と一致しているところが面白い。
お茶の水女子大学理学部数学科卒業。プエルトリコ大学海洋生物学修士、ハワイ大学動物学博士。専門は動物生態学、動物行動生態学。著書に『科学でわかる男と女の心と脳』。