3つの問いをもつに到った最初のキッカケは新入社員の時代にまでさかのぼります。私が入社した頃の商社は、「ガラの悪さ」が取り柄のようなところでした。なかでも私が配属された木材事業の課には、特に厳しい先輩がたくさんいて、当時の課長には何度も「自分で考えろ!」と赤ペンを投げつけられたものです。

テレックスの文面を書いて「よろしく」ともっていくと、真っ赤に直しを入れられたうえ、「何がよろしくだ。もっと考えろッ」と、紙ごと放り出されました。そういう形で、自分の頭で考えることの大切さを教えられ、育てられました。私はよい上司に恵まれたのです。

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加瀬式「部下への課題の与え方」

さらに、「問う」ことの大切さに気づかされたのは、ポートランド(アメリカ)に店長として駐在した時代。現地採用のアメリカ人女性を部長に抜擢したときのことです。日本人なら「喜んで拝命します」で終わりますが、その女性は「なぜ私を部長にするのか?」という質問から始まって、「この店をどうマネージしていくつもりなのか」「そのなかで私の役割は何か」等々、20項目以上の質問に回答を求められたのです。

そのときに、「問う」ということの大切さに気づかされました。こうした長年にわたるさまざまな経験を、私なりに収斂させ形に表したものが、冒頭に挙げた「3つの問いかけ」なのです。

課題の与え方には、部下のレベルに応じて2つのパターンがあります。1つは、ここまで述べたように「役割を与え、答えを引き出す」パターン。課長や部長にとって自分の課や部に与えられたノルマや目標は、最終的には課長自身、部長自身に課されたもの。それをいかに部下に一緒にやってもらうか、です。

そのために、部下一人ひとりにそれぞれ役割を担ってもらう。そういう課題の与え方が1つ。この場合、役割をどう果たすか、その答えは部下が自発的に考えるように仕向けることが大切なわけです。

このように「問いかけ」によって部下の自主性を育てておけば、その部下がお客さまと接したときも、提案型の仕事ができる人材となっていくはずです。


部下への「問いかけ」こそが上司の仕事

もう1つのパターンは、たとえば課長代理には課長レベル、課長には部長レベル、というようにワンランク上の仕事を与えること。

営業マンとして成績抜群な人が課長としても有能とはかぎりません。チームを指揮管理するマネジメントは苦手というタイプもいます。優秀な課長が部長になっても優秀とはかぎりません。課題を与えて、各々個人の特性を見極めるのも上司にとっては非常に重要な仕事です。できないものを無理にやらせてメンタル面から個人を潰してしまう……これを避けることも、課題を与える上司の責任です。

どちらのパターンにしろ、ノルマや課題を与えるには部下はどのようなことが得意でどんなタイプの人間なのか把握しておくことが必要。そのためには普段のコミュニケーションが大切です。

我々の時代のように飲みニケーションが盛んなら手っとり早いのですが、今の課長、部長はその点、昔の5倍、10倍は苦労しているかもしれません。

(小山唯史=構成 相澤 正=撮影)