最大の予防法は「手洗いの励行」
では、このノロウイルス、ワクチンなどによる予防はできるのだろうか。
残念ながらワクチンは開発中で、現時点での最大の予防策は「手洗いの励行」と二枚貝を食べるときには85~90℃で中心部まで90秒以上加熱調理するしかない。外出先から帰ったときとトイレの後、食事の前は石けんをよく泡立て、指の間や手首まで洗いよく水で流そう。手洗いは同時期に流行するインフルエンザの予防としても有効なのは言うまでもない。
生カキのおいしい季節だが、ノロウイルスが付着しているかどうかは鮮度とは無関係。できるだけノロウイルスによる感染性胃腸炎を避けたい3歳未満の乳幼児、病気がちの高齢者、受験生のいる家庭では、生の二枚貝を食べるのは避けた方が無難かもしれない。二枚貝を調理したまな板で切った生野菜から感染した例もあるので気をつけよう。
誰か1人がかかると家族全員が発症することはよくあることだが、感染を広げないためには、感染者とのタオルの共用を避け、吐しゃ物、下痢便、おむつなどを適切に処理するのも重要だ。床に吐しゃ物が飛び散ったときには、使い捨てのエプロン、手袋、マスクを着用し、汚物をペーパータオルで拭き取る。その後、次亜塩素酸ナトリウムの漂白剤(家庭用塩素系漂白剤)で床を浸すように拭き取ってから水拭きし、処理に使用したエプロン、手袋などはビニールに入れて口を閉じて処分する。
吐しゃ物や便が付着した衣類、シーツ、タオル、敷物などは、85℃の湯で1分以上煮沸消毒するか家庭用塩素系漂白剤(0.02%消毒水)に30分間浸した後、他の衣類とは別に洗濯するとよいそうだ。消毒水を作るときには、ペットボトルのキャップに塩素系漂白剤を軽く2杯に対し、2リットル程度の水で希釈するのが目安。念入りに感染を予防したいなら、トイレの便座やドアノブなども消毒薬を浸したタオルで拭き、水拭きするとよいとか。アルコール消毒液や酸素系漂白剤、一般的な合成洗剤、石けんではノロウイルスは死滅しないので要注意だ。
感染性胃腸炎になった場合は、インフルエンザのような抗ウイルス薬はなく、何度も吐き続けるようなら吐き気止め薬を使ったり、高熱なら解熱鎮痛剤を服用したりといった対症療法が中心になる。ただ、下痢止め薬は、ウイルスの体外への排出を妨げ回復を遅らせるため飲まないほうがよいとされる。一般的には症状がひどいのは1~2日でその後は食欲も回復するので、大騒ぎする必要はないことがほとんどだが、嘔吐と下痢が続いているときには、脱水にならないように注意しよう。乳幼児や高齢者がかかったとき、それ以外の年齢の人でも水分がとれないときには医療機関を受診したほうがよいだろう。
なお、症状がなくなっても、一般的には3週間程度、排便によってノロウイルスが排出される。健康な成人でも1カ月以上、先天性の病気の子供では6カ月以上、便からノロウイルスが排出されたとの報告もある。家族の食事を作る主婦(主夫)や食品を扱う仕事をしている人が感染性胃腸炎になった後、感染後の乳児のおむつを触るときには、いつもより念入りに手を洗うようにし、感染を広げないよう気をつけたほうがよさそうだ。