がんの「劇的な寛解」とは何か

がんの劇的な寛解とは何を意味するのか。これを考えるにあたって、まずは「標準的な」寛解、あるいは「劇的ではない」寛解とは何なのかを考えてみましょう。

医師ならこう考えるでしょう。初期に発見された、治療しやすいタイプのがんなら、寛解は期待できる、と。たとえばステージ1の乳がんで、手術、抗がん剤と放射線という標準的な治療を受けた女性の場合、統計的にいえば、その後5年間はまず再発しないだろうという予測が成り立ちます。でも、もし同じ女性が膵臓がんのステージ1だと診断されたら、同じく標準治療を受けたとしても、5年生存率はわずか14パーセントにすぎません。なぜなら現代医学には、ステージ1の乳がんほどの治療効果を上げる膵臓がんの治療法は、存在しないからです。

わたしは「がんからの劇的な寛解」の定義を、次のように定めました。

・がんの種類は問わず、「寛解」が統計的に極めて稀であること
・その統計とは、がんのタイプ、ステージ、受けた治療によって異なるものとする

さらに具体的に記しましょう。

「がんの劇的な寛解」とは、次のいずれかの事態が起きた状態を指します。

1 医学の標準治療(手術、抗がん剤、放射線)を一切用いずに、がんが検知できなくなった場合
2 標準治療を受けたががんは寛解せず、代替医療に切り替えてから寛解に至った場合
3 統計的にみて余命が極めて短い(5年生存率で25パーセント未満)がん患者が、現代医療と代替医療を併用したところ、統計を上回って生存している場合

統計的予測を覆してがんが寛解するのは、たしかに稀ではありますが、体験者は数多く存在します。

わたしは腫瘍内科医に会うたびに、「がんを劇的に寛解させた患者を診たことがありますか」と聞いています。これまでのところ、全員の答えが「イエス」でした。そこで「ではその症例について医学雑誌で報告しましたか」と聞くと、全員が「ノー」と言いました。

思ったとおりです。劇的な寛解の症例を追跡するシステムでもつくらないかぎり、こうした現象が実際にどのくらいの頻度で起きているのか、わたしたちには知る由もないのです。

この目標を実現するため、本書のウェブサイト(RadicalRemission.com)では、がんを克服した人、医師、治療者、読者の皆さんが手軽に劇的寛解の症例を投稿できるようにしました。データベースは無料で一般公開しています。データは研究者も自由に使えます。またがん患者やその家族にとっては、ほかの人がどうやって劇的な寛解を遂げたか、調べることができます。

Dr. Kelly A. Turner ケリー・ターナー博士
腫瘍内科学領域の研究者。学士号を取得したハーバード大学時代に統合医療に関心を持ち、カリフォルニア大学バークレー校にて博士号取得。博士論文研究では奇跡的な回復を遂げた1000件以上の症例報告論文を分析し、1年間かけて世界10カ国へ出かけ、奇跡的な生還を遂げたガン患者と代替治療者を対象に、治癒に至る過程についてのインタビューを行った。本書はそこから得られた知見を患者や家族、そして健やかに生きたいすべての人のためにわかりやすくまとめた著者初の書籍。
(長田美穂=訳)
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