知恵を絞り出す「引き算」の開発
大山社長によれば、一般的に開発者は「足し算」で値決めをする。部品Aがいくら、Bがいくらと原価を足し合わせ、そこに利益を上乗せして価格を決める。ところがアイリスの値決めは「引き算」なのだ。最初にいくらで売るかを決め、そこから10%の利益を引き、残った金額のなかで作る方法を考える。最初に価格が決まっているからこそ、その枠に収めるために知恵を絞ることになる。
しかも、値決めの基準は大山社長ではなく、「嫁はん」だ。「プレゼンテーション会議のとき、僕は開発者に聞くんです。『その値段で君んとこの嫁はんは買うんか』と。開発者は、原価は知っているけれど高いか安いかはわからない。嫁はんは、原価は知らないけれど高いか安いかはわかる。嫁はんが高いと感じたら、絶対に売れません」
わずか4カ月という開発期間にも、「大義」があるのだと大山社長は言う。
「物が売れるにはタイミングがある。電球が売れる時期は12月と3月。そこを逃したら売れないのです。だから先に発売日を決めて、そこから引き算で開発スケジュールを詰めるのです」
ここでも足し算ではなく、引き算なのだ。部品Aの開発に何カ月、Bに何カ月と足し算をしていくのではなく、この日に売り出すにはAの開発はいつまでに終えると引き算で考える。価格と同様にゴールが決まっているからこそ、開発者は知恵を絞る。いや、絞らざるをえない。
これこそアイリスオーヤマの、アイデアを生みだす仕組みの核心なのだが、問題は、開発の現場がそれをどう受け取っているかだ。小野が言う。
「最初は、すごく嫌でしたね。なんで俺が満足できないものを売るんだよ、と思っていました」
前職の電機メーカーでは、研究開発部門が圧倒的に強かった。
「営業に対しては『俺たちが作ったものを売ってこい』という姿勢でした。アイリスはこれとは真逆です。しかし生活者の目線から見れば、価格と発売日が重要なのは当然です。いまは決められた枠の中でアイデアを練って、どれだけ品質を高められるかを常に考えています」