経営再建から反転攻勢へ。三菱自動車工業の社長兼COOに今年6月に就任した相川哲郎氏は、「ekワゴン」などのヒット作を生んだ開発畑のエースだった。これからどう舵取りしていくのか。
三菱自動車工業 相川哲郎社長 
1954年、長崎県生まれ。78年東京大学工学部卒業後、三菱自動車入社。2004年常務執行役。05年常務取締役。14年6月社長に。父親は相川賢太郎・三菱重工業元社長。
──久々に生え抜き社長の登板ですが、重点テーマは?

【相川】(三菱商事出身で)9年間社長を務めた益子修会長がやってきた選択と集中を、引き継いでいきます。新興国、SUV、電動車両を糧として成長戦略を推し進めたい。いまは水面から顔を出し息を吸えるようになった段階。これから陸に上がり山を登っていきます。私は開発に30年在籍したが、「他社がやらないことをやれ」と教えられ育ってきました。期待を超える技術と商品を出していきます。

──電動車両は強みでは?

【相川】当社は世界初となる電気自動車(EV)の量産車「i-MiEV」を2009年に発売しました。EVをベースにしたプラグインハイブリッド車(PHV)などの電動車両は技術のコア。この6月、欧州で販売を始めた「アウトランダーPHEV」は好調で、かつてない手応えがあります。

──米テスラモーターズのEV「モデルS」は、富裕層をターゲットに環境よりも走行性能やデザインを訴えヒットしていますが。

【相川】一部の富裕層ではなく、環境を大切にする多くの人々に向けて電動車両をつくっていく。世の中の役に立ちたいのです。でないと、会社は社会から見放される。人の嗜好だけを追い求めていると、ブームが去ったら消えていきます。

日本で昨年発売したアウトランダーPHEVもやはり、環境に優しい車として開発しました。しかし、結果として、走りなどが評価されて売れています。

──トヨタが燃料電池車(FCV)を発売しますが、電動車両はどうなっていくのでしょうか。

【相川】水素が必要なFCVよりも早く、外部から充電するEVとPHVが普及を加速させていくと考えます。なぜなら、電気はすでに各家庭にきていますから。EVには急速充電器が必要という見方はありますが、現実にEVユーザーは家庭電源だけで、ほとんど事足りています。一方、FCVは水素ステーションというインフラが不可欠。インフラ整備だけでも大変な時間とお金がかかる。当社もFCVの開発を手掛けているので、否定はしませんけれど。

これから、自動車の環境規制は世界的に強化されます。米カリフォルニア州のZEV規制、欧州のCO2規制、中国の省エネルギー・新エネルギー自動車産業発展計画など20年まで目白押しです。当社もZEV規制の対象メーカーになりました。これからポイントになるのは実用性が高いPHV。アウトランダーPHEVに続く二の矢、三の矢を放っていきます。

──軽自動車で協業する日産は、九州で独自に軽を生産する意向を示しています。また、共同開発中の軽EVはどうなっていますか。

【相川】日産がどうするかは、コメントのしようがない。日産との合弁のNMKVで企画・開発した軽を(三菱自工の)水島製作所で生産するという認識に、変わりはありません。EVの共同開発は検討中の段階。どの電池を使うかなど、まだこれからです。ただ、日産とは良好な関係で、幹部同士ではフランクに話し合っています。

(永井 隆=構成 的野弘路=撮影)
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