敗者は勝負がワクワクするものだと考えている
勝者は勝負の前に、すでに勝つ確率を高める算段をしています。一方の敗者は、勝負がワクワクするものだと考えて当日にだけ全力を尽くし、時の運が良いことをひたすら祈ります。ある意味で、敗者は事前の準備を軽んじ、その場で全力を尽くすだけで勝てると甘く考えているといってもよいでしょう。敗者を特徴づけるキーワードの一つは、勝負に対する甘い見通しなのです。
孫子は敗者とは真逆の発想をしています。勝負が始まる前に、勝算を限界まで高めることを基礎としているからです。以下、
○彼我の戦力を検討した上で、戦うべきかの判断ができること
○兵力に応じた戦い方ができること
○君主国民が心を一つに合わせていること
○万全の態勢を固めて敵の不備につけこむこと
○将軍が有能であって、君主が将軍の指揮権に干渉しないこと
上記は孫子の記述をほぼそのまま短縮したものですが、現代ビジネスに翻訳すれば以下のように読み直すことができます。
○それは本当にあなたが始めるべきことであるかよく考える
○今の自分の実力や立場に応じた始め方ができること
○同じ目標の仲間、応援団を作り上げる
○自分の外にある機会に目を開いておくこと
○有能なパートナーを選び、能力発揮を妨げない
孫子の5つの基本条件は、私たちが日常のビジネスで心掛け、実行できる実利的な行動ばかりです。興味深い点は、やはり「それは本当にあなたが始めるべきことか」というように、打って出る勝負を慎重に選ぶことを最初に提示していることでしょう。間違った勝負を選んでしまえば、すべての努力が水泡に帰してしまうからです。猪のように猛進するのではなく、自分が戦うべき戦場を正しく選ぶことから勝負が始まる、「あえて戦わない」ことを選択することで、本当に大切な勝負に集中できることも、孫子の兵法の強みです。