巨大地震が噴火を誘発する可能性としては、日本一の標高を持つ富士山も例外ではない。東日本大震災の4日後の3月15日に、富士山頂の南でM6.4の地震が発生し、最大震度6強が観測された。その震源は富士山のマグマだまりの直上だったため、マグマに何らかの影響を与えたのではないかと私をはじめ火山学者はみな肝を冷やした。その後は幸い、富士山が噴火の途上にあることを直接示すデータは得られていない。
「3.11」クラスの巨大地震が発生した後、富士山が大噴火した例
一方、過去の歴史を見ると、「3.11」クラスの巨大地震が発生した後、富士山が大噴火した例がある。江戸時代の1707年、M8.6の「宝永地震」が発生した49日後に、大量のマグマが噴出した。江戸の街に数センチメートルもの火山灰を降らせた「宝永噴火」だ。
この噴火は直前の巨大地震によって誘発された、と火山学者は考えている。その恐れは、西暦2030年代に起きると予想される「南海トラフ巨大地震」(M9.1)にも当てはまる(※1)。すなわち、東海地震~東南海地震~南海地震の三連動が富士山噴火を誘発する可能性もゼロではない。富士山は日本で最も観測網が充実している活火山の一つだが、監視すべき最重要火山であることには変わりない(※2)。
「3.11」をきっかけとして、日本列島の火山が噴火しやすくなったことはほぼ確実だ。可能な限り火山の地下を監視し、災害に巻き込まれる確率を減らす努力が肝要である。ちなみに西暦79年、ローマ時代のポンペイには火山学がなく、活火山ヴェスヴィオ山の噴火によって麓に暮らす市民2000人が犠牲となった。
もし日本でも火山観測をやめてしまえば、我々はポンペイ市民と同じ運命をたどることになる。確かに、科学は万能ではない。しかし、それを踏まえた上で、1人でも多く人命を救うため噴火予知に投入する税金は決して無駄ではないと思う。
※1:南海トラフ巨大地震では津波最大高34メートル、犠牲者総数32万人、経済被害270兆円が発生すると予想されているが、周知徹底されていない(鎌田浩毅著『京大人気講義 生き抜くための地震学』ちくま新書より)。
※2:2004年に内閣府は、富士山が宝永規模の大噴火をすれば最大2兆5000億円の被害発生と試算したが、火山学者の多くは過小評価と考えている(鎌田浩毅監修『地震と火山』学研パブリッシング、鎌田浩毅著『富士山噴火』ブルーバックスより)。