感動によってこそ、部下は自発的に動く
――「数字を上げた人が上になるべき」ではないのですね。「名選手名監督にあらず」とはよく言ったものです。
プレーヤーとしても、マネジャーとしても優れている人はいます。ですが、誤解を恐れずに言えば、プレーヤーとしての優秀でもマネジャーとしては成功しない人が多いのが現実です。仕事柄、私はマネジャーたちの悩みを聞く機会がありますが、彼らの悩みはビジネス上の戦略ではなく、何をもって自分の強みを発揮できるのかということです。多くのマネジャーは、「自分とは何者か」という根本的な問いに悩まされています。現代組織のマネジャーたちは疲弊しきっています。あまりに細分化された業務やルール、煩雑な事務処理、人間関係、人事異動や配置転換によって、本当の自分とは違う働き方を余儀なくされている人がほとんどなのかもしれません。
ドラッカー・スクールでは、一貫して、学生にシンプルな原則を教えています。
「自分自身をマネジメントできなければ、組織をマネジメントすることはできない」
ドラッカー教授の「セルフ・マネジメント」の考え方を、現代的な形で教えているジェレミー・ハンター教授の言葉がとくに印象に残っています。
「多くのマネジャーが自分自身の『外』のことに意識を奪われ、自分の『内面』をマネジメントできていない」
そして、ドラッカー・スクールではじめて受けたドラッカー教授の講義で、教わったことも忘れられません。
「とくに日本からの学生は、自己紹介をしてもらっても会社の名前や部署、肩書きを言うだけの人が多い。しかし、私が知りたいのは、その人自身が何者で、何を大切に考えて生き、働いていて、何が強みなのか、ということだ」
自分自身の情熱が閉じ込められ、強みがいかせていない場合には、どんな美しい言葉で語ったり、美しいプレゼン資料を作ったりしても、「その人自身の思い」は表現できていません。まるで性能のよい機械が話しているようでもあり、話の内容に感心はしてもらえても、感動まではしてもらえない。それでは、組織全体を動かすエネルギーは生まれてこないのです。感動によってこそ、部下は自発的に動くようになるからです。
利益のみを追求する企業は業績が悪化する
藤田さんに挙げてもらった「ドラッカーの考える理想の上司像」は「部下の弱みより強みを重視する人」、もうひとつは「知性より真摯さを重視する人」であった。「そんなことより、数字を出せるマネジャーが最高評価を受けるべきである」と反論する人はいるだろう。そんな人にドラッカーなら何と切り返すだろうか。藤田さんが、選んだドラッカーの言葉をお届けしよう。
「利益のみを目的化する企業は、短期的視点からのみマネジメントされるようになる。その結果、企業が持つ富の増殖機能は破壊されないまでも、大きく傷つく。結局は業績が悪化していく。しかもかなり速く悪化していく」
1996年、上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュア勤務。2004年、米クレアモント大学院大学P. F. ドラッカー経営大学院(ドラッカー・スクール)にて経営学修士号取得。帰国後、ベンチャー企業で役員などを務め、コンサルタントとして独立。著書に『ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント』(日本実業出版社)がある。