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働きやすい場所を支えているあわれなイケニエたち

看板を支える人と、そこにぶら下がる人がいるのは組織の常ですが、普段、職場で能力のない問題児だと思われていた人物が、状況の変化次第では一番有能な存在になるかもしれない。戦争で捕虜として収容された施設では、少将・中将など将官はまったく役に立たず、半端な材料から何でも作りだす器用な大工が一番役立ったというエピソードは有名です。

虫や植物など生物の世界を観察していれば、生き延びるためには多様性が必要だということがよくわかります。人間でも鎌状貧血という病気を起こす遺伝子に関して、次のようなことがわかっています。

この遺伝子を2つ持っていると、鎌状貧血を起こして死んでしまいます。ところが、そんな不利な遺伝子を抱えた人々が絶滅せず、地中海沿岸で少なからず生き残っています。実はこれが、マラリアの多い地域と一致している。鎌状貧血の遺伝子は、マラリアに対しては強かったのです。

2つ揃えば貧血で死んでしまうが、1つだけなら、マラリアに罹らずに生き残る確率が少し高まる。何が役立つかは環境次第なんですね。

したがって、たとえ問題児であっても、様々な人材を抱え込んだ多様性ある職場ほど状況の変化に強いという視点で、職場の人間関係をもう一度捉え直してみるのも一法かもしれません。

養老孟司(ようろう・たけし)
1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。東京大学名誉教授。著書『バカの壁』が2003年のベストセラー1位、流行語大賞。ほかに『「自分」の壁』『無知の壁』『唯脳論』『身体巡礼』など多数。
(構成=小山唯史 撮影=小原孝博)
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