現在、多くの管理職が部下との対話に苦労している。部下と良好な関係を築くためには、どのような心がけや行動、そして言葉が有効なのだろうか? 部下のタイプ別に、取るべき具体策を専門家に聞いた。

田の字型に机が並び、互いの顔がすぐ目の前にあって、仕事内容はもちろん、何を考えているかもすぐわかる。そんなオフィスもいまは昔で、目の前のパーテーションが仲間の顔を遮っている。何ごともメールで行うから会話もない。電話も鳴らない。パソコンに向かっていれば仕事が済む時代になったが、あまりに会話がないと、上司としては心配になる。

「そんな部下に接するには、発想の転換が必要」と本間正人氏は説く。「上司からすると、わけのわからない奴かもしれませんが、部下からすれば、上司こそ、いままで付き合ったことのない“宇宙人”なのかもしれない。学校では先生の話を一方的に聞くだけ、家に帰れば少子化で兄弟はいない。父親も不在がちで、せいぜい母親としか会話をしてこなかった若者が増えています。彼らは会社でのコミュニケーションを拒絶しているのではなく、どうやって上司や同僚と付き合えばいいのかがわからない。飲みに連れていけばいい、と昔は乱暴なこともいえたのですが、そもそも年上の人と飲みにいった経験がないのですから、それだけではコミュニケーション下手は直りません」。

この問題に対しては、「こちらの“土俵”に上がってこい、と強いるのではなく、自ら部下の“土俵”に上がってみては」と本間氏はアドバイスする。「休日は何をやっているのか」「将来の夢は」といった、こちらが聞きたいことではなく、最近観た映画でも、好きなアイドルのことでもいい、向こうが話したいことを話してもらうのである。

そのために本間氏が推奨するのが「ヒーロー・インタビュー」である。「仕事やプライベートで得意とすること、誇りに思っていることを自由に話してもらうのです。新人であれば『学生時代に一番力を入れて頑張ったことは?』という質問を、入社2、3年目の若手だったら『この間のプロジェクト、うまくいったな。どういう秘訣があったの?』『パソコンのデスクトップ、すっきりしているな。何か特別なツールでも使ってるの?』といったお題をこちらから振ってもいい。答えによっては、あなたが部下から学ぶことがあるかもしれません。的確な質問ができるには、日頃から部下のことを観察しておく必要があります」。

新人が悩みを抱え、孤立したりしないよう、いくらか年次の高い先輩をお目付役(メンター)につける会社が増えている。こうした施策はコミュニケーションの活性化につながらないだろうか。「つながると思いますよ。でも気をつけなければならないのは、問題のある部下だけを対象にしないこと。自分だけがなぜ? と拗ねてしまい、重い口がますます重くなってしまうかもしれません」。

さらに本間氏はこう続けた。「そもそも、同僚と無駄口を叩き、和気藹々とやるのが望ましいという考えは捨ててもいいのではないかとも思います。仕事に支障がなければ、黙々と仕事をこなす人を非難できる筋合いはありません」。

ただ、仕事のスタイルとして、そういう部下が自分の下にいるのは耐えられないという上司はどうすればよいか。「無駄話のように思える会話がなぜ重要なのか、本人に諭したらどうでしょう。『それは君のキャリアにも関係することなのだ。いまの部署から他へ移る可能性はゼロではないから、君の価値観や将来の夢を上司たる私は把握しておく必要がある。そのために家族構成や日常生活のことなど、こまごましたことが重要になるんだ。それがないと、君への接し方や仕事の振り方が意に沿わないものになってしまうかもしれない。そうなると君は困らないか』と。ここまで話せば、もう少し口を開いてくれるのではないでしょうか」。

※すべて雑誌掲載当時

本間正人 ほんま・まさと●NPO学習学協会代表理事、帝塚山学院大学客員教授、東京大学文学部卒業、ミネソタ大学大学院修了。NHK教育テレビ「実践ビジネス英会話」の講師などを歴任。コーチングやポジティブ組織開発、ほめ言葉などの著書多数。
(飯田安国=撮影)
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