「何を考えているのかわからない」と相手に思わせてしまうのは2つの原因が考えられる。一つは会話が少なく、相手のことがよくわからない場合である。
齋藤淳子氏がコーチングを受け持った人の中に、ある会社の工場長がいた。その人の悩みは「部下が挨拶もしてくれない。言葉をかけても反応が鈍く、何を考えているかわからない」ということだった。
ある朝、齋藤氏は件の工場を訪ね、工場長が来るまで応接室で待っていた。ドアが開いていたので、出勤してくる社員の様子が丸見えだった。「おはようの挨拶もない暗い職場なのか」と見ていたら様子が違う。みんな元気におはようをいい合っているではないか。そこで齋藤氏は気づいた。「工場長も挨拶をしているのですが、いかめしい顔つきのまま、怒ったように、おはようといっていたんです。それでは誰も元気よく挨拶を返してはくれません。相手の目を見て挨拶する。帰るときには部下にもお疲れさまという。仕事をきちんとやってくれたときにありがとうと感謝の気持ちを伝える。コミュニケーションの原則をきちっとやることをアドバイスしました」。それから、工場長と部下との間で会話の量が増え、彼の悩みも解消したという。
部下も人間である。「何を考えているかわからない」と嘆く前に、自分は部下にとって「何を考えているかわかる」人間なのかを振り返ってみるべきだろう。
「ある日、突然、上司の態度が変わったら部下は怪しみませんか、という相談を受けますが、そんなことはありません。上司が自分の行動を変えていくことは部下にとって大変魅力的に映るんです」。
また、部下が口下手で、自分をどう表現していいのか、わからないケースもある。「『君の意見、面白いから、もう少し聞かせてくれ』とか『それは表現を変えると、こういう理解でいいかな?』といったふうに、相手の言葉を理解し、引き出す工夫も必要です。グローブがあるからボールが投げられる。上司は自分が部下の言葉を受け止めるグローブになっているかを考えてみる必要があります」。
さて、もう一つの原因として、同じ時間を共有する機会が不足している可能性がある。「何を考えているかわからない」と思ってしまう部下と、あなたは何時間、話したことがあるだろうか。「ポイントは頻度の高い関わりです。1カ月に1回、30分話すよりは、1日1分でいいですから、毎日、会話を交わしたほうがお互いに深くわかり合えるものです」。
それには仕事以外の時間も大切だ。齋藤氏が重視するのがランチタイムである。氏の同僚は入社したての時期、上司からこういわれたという。「あなたには昼休みはないよ」と。「昼休みの君の仕事は、いろんな人とランチに行くこと。仕事、会社、職場のことをよく勉強し、あなたのことも皆によくわかってもらいなさい」ということだった。その通りである。
「何を考えているのかわからない」部下をまず明日のランチに誘ってみては。
※すべて雑誌掲載当時