谷口は大学を卒業後、新卒でダイソーに入社した。動機は簡単だった。実家の幕張近くにダイソーの事業所があったからだ。原宿店の店長から始め、西東京エリアを任されるようになった。

ダイソーの勤務時間は長く、会社の要求は厳しい。このまま此処にいてもいいのだろうか、と不安になることもあった。そんなとき、メキシコ、そしてロサンゼルス店の開店を手伝うことになり、その経験を買われたのか、ブラジル勤務を命じられた。

谷口には気の遠くなりそうな多くの仕事が待っていた。店のオープンは12月21日と決められた。ブラジルでは万事が予定通りに進まない。店の看板がつけられたのは開店当日、朝4時だった。

店舗の様子。年内には新たに6店舗をオープンさせる予定。激しいインフレで進出時より価格を見直したが、現地でのニーズは高い。

開店当日、サンパウロは雨だった。数日間ほぼ徹夜状態が続いていた大野は外に出て、目を疑った。ほぼ告知していなかったにもかかわらず、店の前には300人ほどの長い行列が出来ていたのだ。

ブラジル人が物価の高さに辟易していることを大野は感じていた。富裕層はともかく、一般の人々は高い物価に喘いでいた。ダイソーに対する人々の期待を肌で感じた。

開店の特別価格は、5.9レアル――約270円。それでもブラジルでは格安だった。開店と同時に商品が文字通り飛ぶように売れた。

特に売れたのが、包丁だった。皆がまとめ買いするため、1人5本という制限を設けなければならない程だった。

ブラジルでは売れる商品の傾向がはっきりしていると谷口は言う。

「ファンシーな絵柄のマグカップや弁当箱、ひと言でいえばカワイイ商品が売れます」