ダイソーが上手く滑り出すことが出来たのは日系人の存在があると谷口は考えている。

「オープンしてすぐの頃は、まともに時間通り来る従業員は半分ぐらいでした。そうしたら日本で働いたことのある日系人たちがこれでは駄目だと言い出した。ルールを自分たちで作ってくれて、結果としていい人間が残った。彼らの発案で朝礼、終礼をやることになったんです」

ダイソーは商品改廃のサイクルが速く、月に何百もの新商品が出てくる。どの商品がブラジル人に受けるか、大野は日系人の女性社員に意見を聞いている。

「Aランク、Bランクと彼女たちが判断している。日系人の子たちは、日本もブラジルも両方分かっているので、助かっています」

現在の価格は6.9レアル。インフレの激しいブラジルではこの価格を保つことも難しいと大野は言う。

「本来は7.5にしないと駄目なんです。ただどこまで6.9で出来るかの我慢比べ。多少売り上げの悪い月は電気代を見直すことで乗り切ったこともあります」

最近、大野は新たな試みを始めた。

終礼前の計算ドリル。解答時間を競い合う。従業員たちはゲーム感覚で楽しんでいた。

以前からブラジル人は計算、暗算が苦手なことが気になっていた。そこで大野は自分の息子のために作った計算ドリルを終礼前にやらせることにしたのだ。時間を計り、出来た人間から手を挙げさせ、答え合わせをする。従業員たちはゲーム感覚で楽しんでいた。1桁の足し算から始め、2桁の足し算、かけ算まで進んだ。

「ぼくら、遊んでいるんです」

大野は楽しそうに笑った。

「ブラジル人に仕事は修業の場って言っても理解してくれない。でも少なくとも仕事に来て、何か学んでいる、前に進んでいるという感覚があれば楽しくなるんじゃないか。ダイソーの仕事はきつかったけど、自分のためになったと思ってくれればいいかなと」

地球の裏側で踏ん張っていたのは、サッカーの日本代表選手だけではない。

【意外な現実】
・日系人の協力で朝礼・終礼を実施
・価格は一律6.9レアル(約315円)
・2012年から進出。現在4店舗
(Sachiyuki Nishiyama=撮影)
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