街の治安は悪く、従業員の士気は低く、家族も赴任に反対。「地球の裏側」でのビジネスは簡単ではない。次々と起きる想定外の事態にどう立ち向かうか。W杯に沸いたブラジルで奮闘する駐在員たちを追った――。
「カワイイ」商品が飛ぶように売れる
そもそもはちょっとした人助けのつもりだった――。
大野恵介は大学卒業後、繊維関係の企業に就職した。30才のとき、人から誘われて、ブラジルの農場で働くことになった。その後、大野はサンパウロへ出て、食品関係の企業で働いていた。そこで付き合いのある会社から「ダイソー」のブラジル出店の手伝いを頼まれた。
ブラジルは複雑な税制を敷いており、輸入品はほぼ倍以上の値段となる。さらに100円ショップのダイソーが扱う品目は3000品目を越える。仲介に入る予定だった会社は、膨大な作業に音をあげ、大野が現地社長としてダイソーを引き継ぐことになった。
「最初はこっちの日系人の方に言われましたよ。“誰がこんな国に5000品目も持ってこられるんだ。大野君、ブラジルをなめんなよ”と」
この指摘は正しかった。1号店オープンに合わせて、3つのコンテナが届いた。その中の一つを開けた通関業者は唖然とした顔になり、すぐに扉を閉めた。雑多な小物が天井までぎっしり、倒れてきそうなほど詰まっていたのだ。
1品ずつ検品しなければならないため、莫大な金額が掛かるという。とても受け容れられない話だった。大野は辛抱強く交渉するしかなかった。結局、最初の荷物が港に届いてから、通関が終わるまでに約3カ月かかることになった。
2012年10月、谷口正紘はブラジルに着いて唖然とした。来月に1号店がオープンすると聞かされていたのだが、とてもそんな状況ではなかったのだ。