目指したのは「自分にとって手の届くクルマ」
――燃料電池車をこれまで何度かドライブしたことがあります。その中で印象的だったのは、セダンタイプの草分けとして2008年にリース販売されたホンダの「FCXクラリティ」でした。重量物が車体の中央部に集中搭載されているためか、首都高速を走らせても大型セダンボディながら実に機敏な運動性能を見せました。トヨタFCVはさらにその上を行く、と。
通常のクルマはもちろん、今までの燃料電池車と較べてもかつてないドライビングフィールを持たせることができたと自負しています。燃料電池車の特徴の一つに、エンジンを搭載していないことによる静かさがありますが、あまりに無音だとドライバーがクルマを走らせているという実感を得られません。
速度感覚、加速力、滑らかな走りなどを人間の五感にどう感じさせるか。単に振動、騒音、性能などの数値が優れているというのではなく、人が良いクルマだと感じられるような味付けに徹底的にこだわっています。燃料電池車という枕詞がなくては価値を認めてもらえないクルマにはしたくなかった。
――700万円というプライスタグは、プレミアムEセグメント(メルセデス・ベンツEクラス、BMW5シリーズ、レクサスGSなど)と競争可能な価格です。国の補助金が200万円程度になるという噂が本当ならば、プレミアムDセグメント並みの価格。デザイン面でもプリウスライクなスタイリングではなく、そういったプレミアムモデルらしいものにするという手もあったのでは。
もちろんそういう意見もあるでしょうし、逆にもっと先進的でもいいのではないかという意見もよく頂きます。われわれが多くの選択肢の中でこのデザインで行くと決めたのは、一見して燃料電池車と判別可能でありながら、多くの方々から自分にとって手の届くクルマだと思ってもらえるようなキャラクター付けをしようと考えたからです。
コアデザインはフロントの両サイドにある大型の逆台形グリル。燃料電池車は冷却システムを装備するため、前方に開口部を持たせる必要がある。そのことをデザインに落とし込んだものがトヨタFCVのフロントマスクで、プリウスとは大きく異なる部分です。今のところ、大変好評なんですよ。