――イノベーションと競争政策に関して、持論があるとお聞きしました。
【杉本】今、日本のエレクトロニクス産業は非常に厳しい状況に置かれていますが、そのひとつの遠因は、1986年に結ばれた日米半導体協定にあったと思います。要するに、半導体をめぐる国家間のカルテルですね。日本はアメリカにやられた被害者だと思っていますが、実は、この協定をタテに企業は結構安住してきたわけです。シェアも決まっているし、値段も決まっているし、そこで安住してしまったらイノベーションは起きないですよ。
日本のエレクトロニクス産業が国際カルテルに安住してしまったのを尻目に、アメリカはインテルが中心となってCPU(中央演算処理装置)を開発し、同じ半導体というブランド内の競争で新たなイノベーションを起こして活路を開きました。もうひとつ、ブランド内競争で何が起こったかというと、もっと価格を安く大量に生産できるサムスン電子にやられてしまったわけです。
日米半導体協定は短期的には日本が被害者だったかもしれませんが、長期的に見ればそこに安住して競争が生まれなくなってしまった弊害が明らかにある。結局、カルテルに安住してしまうと、イノベーションが起こりにくくなり、企業活動自体が長期的に弱体化していくということだと思います。
1950年、兵庫県姫路市生まれ。69年県立姫路西高等学校卒。74年東京大学法学部を卒業し、大蔵省(現財務省)に入省94年主計局主計官98年大臣官房調査企画課長2000年内閣総理大臣秘書官事務取扱、06年大臣官房長、07年主計局長08年財務事務次官10年東京大学公共政策大学院教授11年みずほ総合研究所理事長などを経て、13年3月から現職。