――話に出たアップル対サムスン電子の特許侵害訴訟ですが、ここでは、製品に不可欠な「標準必須特許」をどこまで守るべきかが争点になっています。標準必須特許を認めてもらう代わりに、誰に対しても合理的な価格で、差別なく権利を許諾することを表明(FRAND宣言)しなければならない制度がありますが、「合理的な価格」の定義が必ずしも明確ではありません。
【杉本】私の立場上、アップルとサムスン電子の訴訟内容がどうだこうだと、個別の問題について言及するのは避けたいと思います。あくまで一般論としてお話しすると、FRAND宣言をいかに適用していくか、競争環境の確保という点からどんな対応を取るべきか、我々も十分検討する必要があるでしょう。このほど、日本の知的財産高等裁判所(知財高裁)で判決が出されましたが、公取は公取として、日本市場において不当に競争を制限する行為になっているかどうか、実態をしっかり調査しなければならないと思っています。
――「検討中」ということはわかりましたが、デジタルエコノミーが加速するなか、プラットホームなど独占に陥りやすい分野との関係をどう見るか、見解を少し詳しく説明してください。
【杉本】経済がデジタル化することに伴って、売り手と買い手の間にプラットホームが生まれ、それがデファクトスタンダードを確立すると、概して一人勝ちになりやすいことは前にお話ししたとおりです。もちろん、デファクトスタンダードも決して競争にさらされないわけではなく、どんどん変わっていくわけですね、マイクロソフトがいつまでも安泰ではないように。ですから、仮に一人勝ちのような状態が生まれても、それに対して新規参入者が挑戦していく可能性を排除することがないように、環境を整備していかなければならないということです。逆に言うと、競争相手を排除するようなやり方には厳しい対応を取るということで、イノベーション(技術革新)を促進する産業政策の基本は、今や競争政策にあると考えています。