地道で巧みな「チーム営業」で約3000万円の売上
最近の投資マンション勧誘では、新たな手口も登場し、消費生活センターへの被害届は急増。業者を訴える事例も続発している。新たな手口とは、婚活サイトなどを使って相手に恋愛感情を抱かせたうえで契約させるデート手法だ。
例えば、ある30代男性は、婚活サイトで知り合った女性とメールの交換をして、デートした。その後、女性から不動産業者の男性を紹介され、2500万円を超える投資用マンションをローンで購入する羽目になる。
また、40代女性は、SNSで知り合った男性と何回かデートをして、結婚を意識させられた後で、投資用マンションの購入を勧められて、やはり紹介された不動産業者と2800万円もの契約をした。
悪質な販売業者は、多くの人がネットを通じてコミュニケーションを取っている点に目をつけて、そこに罠を仕掛けてくる。まず販売員らはSNSや婚活サイトにまず登録して、ターゲットにした異性に「あなたがとても気になっている」というメッセージを送りアプローチをする。
その際、相手の気を引くために、美男美女がこの対応にあたることが多い。またこの手の被害には、結婚を意識したOLたちが遭いやすいが、販売員らは結婚相手に適した安定した職業をサイトに書き込むなどして、彼女たちが興味を示すようにも仕向けている。
こうして実際にデートにまで至るわけだが、最初のうちはマンションへの勧誘話はせず、相手に恋愛感情を抱かせることだけに専念する。そして、デートを重ねて、異性がこちらに十分に恋心を抱き信頼してきた段階で、「“私たち”の老後の資金」「憧れの不労所得」のためなどと称して初めてマンションへの投資を持ち掛けるのだ。
しかも、この異性の販売員は直接に契約の勧誘はしない。「知人に不動産会社の人がいる」といって、次の販売員を紹介し、マンションの契約へと進ませる。つまり、この手口では、恋心を抱かせて投資話を持ち掛ける人物と、実際に契約をさせる人物とを使い分けることで、契約達成の効率性をあげている。
この業者の場合、本来のマンション販売の目的を隠して近づいてくるので、極めて悪質な勧誘といえるが、よく考えると業者の手口はある意味手堅い。婚活サイトのメールで関係作りを始め、デートを何度も重ねるなど、手間暇かけて地道にやっている。
また、彼らは一般のビジネスにおける交渉・取引術をも活用しているように見える。
とりわけ営業でいう「クロージング」にあたる部分。婚活サイトを端緒にじっくり人間関係を構築した上で、不動産のプロフェッショナルへと橋渡しをしている。
これは各スタッフの役割分担を明確にして、自らの責任を全うしながら、「チームプレー」で契約締結へと話を進ませる、いわばロール・プレー&連携の営業だろう。
一人でマルチに、すべてのことを行うには限界があるし、効率も悪くなりがちである。もし相手が契約や交渉を拒否するような不測な事態に陥ったとしても、互いに組織として知恵を出し合い、フォローし合えれば契約にもっていくことも可能になるはずである。
事前に理想とする契約までの流れを作っておき、各部門のスペシャリストに役割分担させながら、スゴロクのように次のステップへ進ませる。それにより、相手の事情に振り回されることなく、こちらのペースで勧誘話ができ、スムーズな契約のゴールへと至らせることができるという算段なのだろうか。