副業を認めたら本業が疎かになるのではないか、というのは余計な心配。会社の仕事をしなくなったら、クビにすればいいだけのこと。私に言わせれば、副業に精を出して会社の仕事をサボるような人材は、もともとの能力・資質に問題があるわけで、そこは個々の会社できちんと評価すればいい。会社の事業や業務に対する守秘義務など、本業との線引きやモラルは就業規則にきちんと記して守らせ、それを破れば即クビとするのは当然のことである。

個々のサラリーマンが副業を持ち、各人が青色申告するようになれば、否が応でも納税意識を持つようになる。道州制への移行に伴って税制を抜本改革する際には、国民全員が確定申告すべきであると私は考えているから、いい準備運動になるだろう。

メリットはそれだけではない。自分に投資しない人、お金を使わない人には所得税は還付されないから、当然、消費が喚起される。クルマは売れるし、空き家も埋まる。景気対策として2兆円をバラ撒くより、はるかに即効性が期待できる。

所得税の国家税収は大幅に減るかもしれないが、今の調子でいけば「製造業900社トータルでマイナス1兆円の赤字」といわれる法人税の危機的状況の前では、所得税の問題など吹っ飛んでしまう。個人消費がGDPの60%以上を占める日本では、ここを刺激しないと景気対策にならない。今までほとんど効果がないことがわかっている公共工事をするくらいなら、税収は下がっても消費した人に報いるべきで、そのほうがよほど経済は活発になるはずだ。

迷路のように入り組んだ税体系をいじらなくても、サラリーマンが副業を持ちやすい仕組みにするだけで、実質的には大きな風穴が開く。サラリーマンの面構えや心構えも変わってくるはずだ。副業を持って自分で帳簿をつけるようになれば、会計の勉強になるし、何より経営のセンスが磨かれる。そうなると、定年後の職探しやリストラによる肩叩きに対する恐怖は激減することだろう。個人として独立した強い日本人をつくるのに、大いに役立つに違いないのだ。

(小川 剛=構成 若杉憲司、宇佐見利明=撮影)