このNTTドコモの戦略を端的に表しているのが、11年11月に公表された「中期ビジョン2015」です。
11年から15年まで4年間の経営指針を示したこのビジョンでは「これからは総合サービス企業として、モバイルとのシナジー効果が高い様々な事業領域において新たな価値創造に向けた取り組みを更に推進していく」と宣言し、今後強化していく事業領域として「メディア・コンテンツ事業」「金融・決済事業」「コマース事業」など8分野を挙げています。
11年度時点でのこれら新分野の売り上げは合計約3500億円。中期計画ではこれを15年度に1兆円規模に拡大しようという、野心的な目標を掲げているのです。
4年間で3倍というこの数字は、現有の社内戦力だけでは実現不可能です。つまり中期ビジョンが掲げる新分野の急拡大という目標は、見ようによっては「これから8つの事業領域で積極的にM&Aを仕掛けていきますよ」という、NTTドコモの「M&A宣言」ともとれるのです。
もちろん、らでぃっしゅぼーやの1件だけをとってNTTドコモの経営戦略全体を云々することはできません。しかし、同社の買収は中期ビジョン発表後、最初に発表されたM&A案件であり、ビジョンで打ち出した方向性に則った布石であることは間違いないでしょう。中期計画の実現のためには一定規模のM&Aを継続的に行ってゆく必要があり、今後の進捗を見守りたいと思います。
1964年、愛媛県生まれ。早大政経卒。ワシントン大学MBA。88年に野村総合研究所へ入社、シンガポール、米国勤務を経て、2000年から日本で通信アナリストを担当、11年より現職。