思いを込めた実車確認の4文字

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「N BOX」誕生の軌跡

10年の秋、三重県鈴鹿市にある製作所の簡易テストコースに、開発チームは2台の試作車を用意した。

当時、N BOXには「軽にしてはおごり過ぎているのではないか」という役員からの懸念が最後まで残されていた。アイドリングストップシステム、坂道での発進をサポートする「ヒルスタートアシスト」(HSA)などを標準装備することにこだわったからだ。

その日、すべての資料を説明し終えた後、前身のコンセプトカーから開発に携わる倉知郁雄さんは、配布した予定表に書かれた「実車確認」の文字にあらためて思いを込めた。

ホンダ N BOX 開発チーム 
倉知郁雄

1959年生まれ。83年名古屋大学工学部卒業、本田技研工業入社。F1エンジンの開発を経て、05年より軽を担当。現在は次期軽の責任者。

「会議では『おまえが何を言っているのか、俺にはわかんねえ』と役員に言われ、全員の顔が曇ってしまう瞬間もありました。そこでシステムを装備した車と装備していない車を並べ、コースに坂道も用意したんです。乗ってもらわなければ、特に女性ユーザーの気持ちなんてわからない。試乗が行われると、HSAを装備していない車では坂道で少し下がってしまう役員もいました。でも、装備車はぴたっと止まる」

営業部の役員が、試作車のウィンドーを開けたのはそのときだった。彼は坂道に車を停止させたまま窓から顔を出すと、会議室で「わかんねえ」と言っていた1人に向かって大声で言った。

「このクルマ、買いだよ!」

N BOX誕生の瞬間だった。

「本当に自分たちが胸を張れるものを作りさえすれば、最後には伝えることができるのが我々の仕事。『買いだよ』という声を聞いたときは、本当に嬉しくて『やった!』と思いましたよ」

(永井 浩=撮影(人物))
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