「楽観も、悲観もしていない」

減圧用のポンプを稼動して4時間、杭底の圧力が130気圧から80気圧まで下ったところで、ちきゅうの船尾にとりつけたバーナーが炎を噴いた。世界で初めて海底のメタンハイドレートからガスが採りだされた瞬間だった。さらに杭底圧は50気圧まで下げられる。ガスの日産平均量は2万m³に達し、3月16日には3万m³を突破した。予想を超えた産出量で、関係者の間に衝撃が走った。

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濃集帯の経済性評価の流れと結果。MH21の資料を基に編集部作成。

船上のスタッフはもとより、千葉で見守るJOGMECの佐伯氏、札幌の産総研の成田氏ら、メタンハイドレートの研究開発に心血を注いできた人たちは驚きを隠せなかった。日量平均2万m³で6日間、ガスは生産された。最終的には、坑内に砂が入り込んでしまい、実験は終わった。成田氏は、手応えを奥歯で押し潰すように語る。

「試験終了後、ワーキング・グループをつくって出砂の現象の解明などに取組んでいます。2万m³という値は、一つの目安として重要な結果である。しかし、わずか6日間では、減圧法に対する地層の精密な応答はわかりません。私自身は、今回の試験結果を楽観も、悲観もしていない。大切なのは商業化に向かって、次の海洋産出試験で何を実現するか。具体的には長期間安定的にガスを生産すること、より大量のガスを生産すること。杭底の気圧は30気圧程度まで下げれば、産出量はぐっと増えるでしょう」

成田氏は慎重に言葉を選んで語る。試験が「成功した」とは言わない。煽るような言動は徹底的に避ける。だからこそ、メタンハイドレートの実用化、商業化の像がより鮮明に結ばれつつあると、私には感じられる。次の図をご覧いただきたい。フェーズ1で、東部南海トラフのα1という海域を対象にした「濃集帯の経済評価の流れと結果」である。