1円分の電気窃盗で書類送検のケースも

実際、捕まった例もある。2004年、名古屋駅で出張中の会社員が、会社にメールを送ろうと、公衆電話コーナーの足下にあった清掃用コンセントにノートパソコンをつなぎ電気を5分間無断使用していたところを鉄道警察隊に発見され、窃盗の疑いで書類送検された。被害額約1円である。

07年、大阪でコンビニ外壁の看板用コンセントから携帯電話に15分間充電していた中学生が窃盗容疑で書類送検されている。こちらも被害額は約1円。

どちらも書類送検までで不起訴だった可能性も高いが、執行猶予付きながら懲役刑の判決が出た例もある。料金滞納で電気を止められた男が、アパートの廊下にある共用コンセントのカバーを壊してコードをつなぎ、自室でテレビを見ていたケースがあった。これに関して、10年、大阪地裁は、2円50銭相当の電気を盗んだとして、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡している。

ただし、現実問題としては、何回警察官に注意されてもまだやめないという状況でもない限り、事件にまで発展しないのが一般的だ。レストランの座席の近くにコンセントがあり、客が使うことを想定しているような場合も、まず罪に問われることはないだろう。

とはいえ、刑法で電気は財物と明確に規定されているので、勝手に使えば犯罪と肝に銘じたい。

ここで気になるのは、電気以外の無体物の「ちゃっかり利用」だ。たとえば無線LAN。通りを歩けば、あちこちの家庭から電波が漏れ出ている。この電波は財物ではないので利用しても窃盗には当たらない。ただし、パスワードがある場合、これを無理やり破って利用すれば、窃盗罪ではなく不正アクセス禁止法違反に問われる。

もっと身近なところでは、本の立ち読みがちゃっかり利用の代表格だ。これも、立ち読みで得られる「情報そのもの」は財物ではないので窃盗にならない。

立ち読みしながら携帯電話のカメラで本の一部を撮影した場合、様態によっては著作権侵害に問われる可能性はあるが、窃盗ではない。そもそも法律上、情報窃盗というものが存在しない。

繁盛しているライバル店のレイアウトを参考にしたくて店内を撮影した場合、撮影禁止の貼り紙があったとしても、刑法犯にはならない。民事上の不法行為になるかならないかといった程度の話だ。

だが、いくら刑法上の窃盗ではなくても、迷惑防止法違反や住居侵入など別の法律で罪に問われることもあるので注意が必要だ。

(構成=斎藤栄一郎)
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