レンタルショップで借りたDVDをうっかり返し忘れ、返却期限を過ぎてしまった――。こんな経験をした人は少なくないだろう。

そもそもDVDを借りる行為は法的にはお客とレンタルショップとの間の「動産の賃貸借契約の締結」にあたる(民法601条以下)。レンタルショップのカウンターには通常「延滞料1日につき○円」と書かれており、これが民法上、DVDの返却の遅れによって生じる損害などを事前に定めたものとされる(民法420条1項、3項)。

DVDをレンタルする前提として会員規約に同意してレンタルショップの会員になる必要がある。会員規約には通常、延滞料についての規定がある。会員規約に同意した以上、「延滞料を支払う約束をしたつもりはない」と言い切るのは法律上難しい。約束しているため、それが原則となるからだ。

ただし、その原則を修正する「消費者契約法」がある。通常、DVDの定価は5000円前後であり、もし数十万円の延滞料を支払うとなると定価の何倍もの金額になる。

「それは納得いかない」というのはもっともな話だ。

この点「消費者契約法10条」には、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する特約で、かつ、消費者の利益を一方的に害する規定については、無効とする旨の規定がある。したがって、延滞料の規定がこの条項に該当する場合には無効となる。上限なく延滞料が発生すると、その金額が相当高くなり消費者、つまりレンタルショップの会員が一方的に過大な不利益を被るので、過大な損害部分については無効になると考えるのである。

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延滞料金減額交渉時の考え方

つまり、延滞料の特約がなければ、レンタルショップは、そのDVDの返却が期限までになされなかったことによる通常の損害についてだけ、請求することができるに過ぎない。レンタルショップがそのDVDをほかのお客に貸して得られるであろう利益は、積み重なった数十万円の延滞料よりも低いはず。合理的な範囲に抑えられるべきだ。したがって、それを超える分については、「消費者の義務を加重するもの」「消費者の利益を一方的に害するもの」として、この消費者契約法10条により、無効とされるのである。

では、レンタルショップの通常の損害というのはいくらぐらいなのか。これはまず、同じDVDを再調達する場合の価格が1つの基準になる。他方、そのDVDのそれまでのレンタル状況を考え、本来の返却期限までに返却されていて、ほかのお客にレンタルできた場合の儲けについて通常生ずべき損害として考えることもありうる。

例えば、あるDVDが品薄で市場に出回らないほどに人気があり、レンタルするにも常に予約待ちの状態が続いているような場合、レンタルショップはそのレンタルDVDが返却されなければほかのお客に貸し出す機会を逃してしまう。そのために、多額な損害を被ることもありうるわけだ。

そうなると、単純に再調達価格を支払えばいいとも言えない。これについては、レンタルショップが主張、立証する必要があるが、実際にこの手の少ない金額で裁判になったケースは見当たらない。

ここまでの話をまとめてみよう。もしも数十万円の延滞料を請求された場合、まずは前述した理屈で「そんなに高くないはずだ」と主張したい。その場合、アルバイトの店員ではなく、決裁権限のある責任者と交渉するべきだ。

返却期限が過ぎたためにレンタルショップに生じた損害は、そのDVD本体の価格が基準になる。ただし具体的な事案によってはDVDのレンタル実績なども加味して調整される可能性がある。こうしたことを総合して考えると、本体の価格は5000円程度かもしれないが、上ぶれして2万3万円になる可能性はある。

なお、「民法174条5号」には、動産の損料に係る債権は、1年間行使しないときは消滅するという定めがある。1年以上前の延滞料は時効にかかるので、時効消滅していると主張することもできる。

ただし延滞料を1年間も払わずにいたら、二度とそのレンタルショップでDVDを借りられなくなるだろうから、これも考えものだ。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=百瀬 崇)
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