――3つ目のICTを使いこなす人材の育成には、見通しがありますか?
【黒川】少なくとも大学や大学院の人たちが、あれだけ熱心に就職活動をしているのですから、潜在的に数はいるわけです。そこから、適性の高い人を選抜し、鍛えていく仕組みが必要です。社長を辞めてから大学院などで講義をする機会ができましたが、学生たちと話すと、みんなガッツはあるし、頭も悪くない。でも、大学院で受けているカリキュラム(教育課程)は、企業が求めているものとかけ離れています。学生たちにも話していますが、工学部の情報系の学生が情報処理の世界を深掘りすることは、それはそれで求められています。でも、いまのカリキュラムをこなすだけで、世界でどれだけ勝負できるようになるか、疑問です。また、企業にとって必要なイノベーションとは、技術のイノベーションではなくて、社会の変化に応じて事業内容を変えていくイノベーションなのです。ICTを使いこなせなくては、それは実現できません。
――ICTを使いこなすようになるには、どうすればいいのでしょう。
【黒川】π(パイ)型の人間になることを、意識してほしいですね。パイには2本の脚がありますが、1本は誰にも共通して必要な人間力で、必要なことをきちんと伝えるコミュニケーション能力も含まれます。もう1本が情報系の力で、問題を正確にとらえ、それを解決するために必要なICTの利用技術などの知識力です。ここは、学生時代に深掘りはできませんが、少なくてもその世界について対話ができる水準にはなるよう、努力してほしい。あとは、社会に出てから育成する仕組みが必要ですが、いま、そういう仕組みが日本にはありません。
――どこに、つくればいいですか?
【黒川】やはり大学院を模様替えして、そのなかに仕組みをつくるのがいちばんでしょう。そこに社会人を入れて、鍛える。その話を大学院の教授陣にしたら、どうやればいいかわからないのか、あれこれ言って、頷かない。そこで、富士通では営業や生産の現場で長くすごしてきた部長クラスを、顧客の現場に入って自らの業務経験を生かして顧客と同じ目線で課題の解決を図る「フィールド・イノベーター」に育成した例を話しました。そういう、企業内の流動性を高めるためにも、社会人をどんどん受け入れて育成する仕組みが、大学院にほしいですね。