回転数が上がったことのメリットはそれだけではない。客数が増えれば提供する料理の量が増え、それだけ仕入れる材料の量も増える。その結果、価格交渉力が強くなって、有利な値段で仕入れることができる。

しかし、銀座しまだはそれに甘んじることなく、毎日、材料の相場を見て少しでも安くていいものを買うことを徹底させ、原価を抑えることに成功している。材料費は原価削減効果が大きく、コストダウンの大きなカギを握っており、飲食業に限らずにすべての業種に共通していえる。

さらに銀座しまだ繁盛の大きなポイントは、リーズナブルな価格で料理を提供するため、売上高に占める材料費の割合をあえてアップさせている点だ。一般的に飲食業では材料の原価率は3割前後なのだが、同店のそれは5割以上ではないだろうか。お客1人当たりの利幅は小さくなるものの、お客にとってのリーズナブル度合いはアップし、人気が高まるという仕組みだ。

飲食業には「FLR比率」という指標がある。Fは「フード(材料費)」、Lは「レイバー(人件費)」、Rは「レント(家賃)」で、売上高に対するFとLの比率は各3割、Rの比率を1割に抑えることが目標とされる。つまり、銀座しまだは他店とは逆の道をいく大胆な戦略をとっているわけだ。

また、どのような商売にも「ユニーク・セールス・プロポジション(USP)」という“独自性”が求められる。格安を売り物にする餃子の王将やABCマートも強いUSPを持っている企業だが、銀座しまだにも一流の腕を持つ料理人が揃い、割安な価格で一流の料理を提供するという独自性がある。

いい材料を最高レベルの職人が料理し、手頃な価格で供する。それに長居のしづらい立ち飲みスタイルにすれば、自ずと回転率はアップする。読者のみなさんも銀座しまだの暖簾をくぐることがあったら、料理だけでなく回転率の高い商売の妙も味わってみていただきたい。

(構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)
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