お近づきのしるし作戦

これはなんとかしなければならない。そもそも私のことをまだ知らない調査隊も防除隊も私の都合など気に留めるわけがない。目の前に悪魔がいるのに戦士がたたずんで見守っていられるわけがないのだ。これはなんとかしなければ。

そこで、「お近づきのしるし作戦」をとることに。調査隊も防除隊も家に帰ることがなかなかできず、砂漠の中に留まっていなければならない。長い者だと9ヶ月も砂漠暮らしが続く。固定給の他に日当がでるので、むしろ望んでいる者もいる。とはいってもサハラ砂漠のど真ん中だ。不自由な砂漠暮らしをしている男が喜ぶ贈り物をしようと画策。なにがよいかティジャニに相談したところ、「肉」との回答。

バッタが頻繁に発生するエリアを担当しているチームを訪れ、生きているヤギを一匹贈った。ティジャニが声高らかに「おー、みんな! このヤギはコータローからの差し入れだぞ」とヤギを見せつける。スタッフたちが笑顔で握手を求めて感謝の意を表明してくる。一気にみんなとの距離が縮まった。ヤギ一匹1万円払っただけのことはあった。コックのモハメッドが小型ナイフでヤギの喉を掻き切り、木に吊るして器用に解体した。いろんな部位の肉塊を塩だけで味付け、鍋で煮込む。1時間後、大皿に盛ったヤギ煮込みに全員大喜びで群がり、「コータロー、アリガトー」と口々に御礼を伝えてくる。満腹になって戦士たちの目つきが緩んだところを見計らい、ティジャニに目配せをし、「コータローは生きたバッタが必要だから、もし今後バッタを発見したら退治せずにすぐに情報を提供してほしい」と私の狙いを伝えてもらった。「まったく問題ない」と戦士たち。それ以降、手違いで全滅させられることはなくなった。

自分が抱えている苦しみを共有してくれて、少しでも解決に向けて手を差し伸べてくれる人がいたらどう思うだろうか。人の感情は日本から1万3000キロメートル離れていても共通するものがあった。そして今日も私は、バッタだけではなく、彼らの屈託のない笑顔が見たくて、ティジャニが駆るランドクルーザーにヤギと同乗し砂漠に繰りだしていく。

●次回予告
今回もちらっと登場した「ババ所長」。ババというからにはジャイアントなのか? 偉いのか? フランス語習得途上のバッタ博士とは何語でどんな話をしているのか? 所長が覚悟と共に捨て去り、今、東洋から来たサムライに託そうとする熱い思いとは。「上司が外国人になったら」「職場公用語が英語になったら」と慌てているすべての人々にお届けする、もっと大事な何か。次回第8回《闘う上司(前篇)――ならば共に闘おう》、乞うご期待(8月17日更新予定)。

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