ジャマイカのアーティストが米国移住する理由

一見すると理想的な助け合いである関係性に思える。

だが、ここに落とし穴がある。

当たり前のことを実行しないやつは、コミュニティからつまはじきにされるのだ。日本でいうところの村八分である。

以前、ジャマイカのとあるスラムに長く住んでいるある外国人がいた。もちろん、この習慣は知っていたし、住人たちに助けられて暮らしていた。このままであればなんら問題はなかったのだが、あるとき、その外国人のもとに本国の親戚の遺産が転がり込んだ。するとその人は、コミュニティに還元することなく、自分の家の家具を新しくしたり、自分の贅沢のためにだけ浪費した。

結果、その家は集団強盗に襲われることになった。犯人は地域住人である。

外国人にしてみれば、たまったものではないと思うのだが、住人たちも同じことを考えていた。何せ、転がり込んできた遺産は、コミュニティみんなに還元されなければならないからだ。

どうしても自分だけで使いたかったなら、遺産をもらった時点で、せめて引っ越すべきだった。同じ地域に留まっていたら、このような結末は火を見るより明らかだ、と友人は教えてくれた。

成功したジャマイカのアーティストがたいていアメリカに移住するのは、こうした習慣がうっとうしいから、などこの国の「平等主義」にまつわるいろんな話を聞く。いずれにせよ底辺なりの助け合いに見える習慣もちょっと視点を変えるだけで、裏切りを許さない危険な考え方にもなりうるということなのだ。

一人約50ドルの「スラムツアー」

スラムを取材する側の悩みどころについて、少し紹介してみたいと思う。

インドネシアの最大都市ジャカルタを訪れたときのことだ。在住の友人から、街の外れのほうにスラムがあるという情報を聞いた。コタ地区という風俗やクラブの集まるエリアからほど近い。スラムを取材するのはライフワークとなっているので、当然のように行ってみることにした。

町並みはいたって普通。中心部の高層ビル群とは違って低い建物が並ぶ。開発が追いついていない、あるいはこれからの場所なのだ。

事前にツアーガイドを予約した。待ち合わせに指定されたカフェの前にいたのは、50歳ぐらいの男だった。英語を操り丁寧に挨拶をしてくれた。友達が気を回して手配してくれたのだが、いつも一人でスラムを好き勝手に歩いている身からすると、参加すること自体に居心地の悪さを感じる。ちなみに一人50ドルぐらいとられるが、そこに引っかかったわけではない。

それでも参加したのは、せっかく友人がくれた情報だったから、そこに乗っておこうと思ったのが半分。あとの半分は、ツアーガイドがどのようにスラムを案内するのかが気になったからだ。

当日になって知ったのだが、スラムの子どもたちに何かプレゼントを用意してほしいというリクエストがあったようだ。あくまで「できれば」というリクエストだったので、別になくてもいいだろうと友達と話し、気にしてもいなかった。