会社員として働くより釣りをするほうが合理的

39歳でニュージーランドに移住して、はや15年。現在は小さな町から約20キロ離れた辺境の湖のほとりで、妻、息子と3人で暮らしています。

衣食住の「住」は購入済みで家賃は不要。「衣・食」は、ほぼお金をかけずに賄うことができます。食事は庭の畑で採れた作物と森からの収穫物、湖や海で釣った魚が中心。服は古着か、アンバサダーを務めるアウトドアブランドからの提供品のみです。

仕事は、ほぼ作家業のみ。毎日19時くらいに、息子に絵本を読みながら一緒に寝て、2時か3時に起床。息子が起きるまでの4、5時間で本の執筆に集中し、日中は家事、トレーニング、畑仕事、釣りをする。息子が幼稚園から帰ってきたら家族と過ごす時間を最優先し、仕事はしません。

自給自足は、会社に勤める人には非合理な生き方に映るかもしれません。しかし、価値の変動が激しくて不確かな「お金」を稼ぐために働くより、確かな「食料」を自ら調達するために働くほうが合理的だ、と考えています。野菜は種を植えればほぼ確実に収穫でき、週に何度かカヤックで沖に出れば確実に魚は獲れる。実は、自給自足ほど安定したワークスタイルはないのです。円安やインフレが進行する昨今の不安定な経済情勢を見て、私はますますその思いを強めています。

ですが、私は決して世捨て人ではありません。作家業と会員制コミュニティの運営を通じて社会とつながり、会社員時代に始めた投資も続けています。資本主義を活用しつつも無理な働き方はせず、自分で賄えるものは賄い、生活コストを極限まで下げて暮らす。これが私にとってもっとも合理的な人生戦略、言うなれば「幸福戦略」としてのミニマル・ライフです。

ニュージーランドに移住する前は、音楽業界で15年間働いていました。プロデューサーとして手がけたアーティストが計10回のミリオンヒットを記録するなど、業界内でも知られる存在となり、給料は当時の平均年収の5倍ほどに。しかし、ニュージーランドの永住権を得た2009年、会社を辞め、収入は約10分の1に減りました。

大きな決断でしたが、キャリアや安定を手放すことへの躊躇は一切なし。移住した当初は、学生時代からの「大好きな湖に暮らす」という夢がようやく叶った喜びで、湖を眺めながら毎日泣いていたほどです。

四角さんの自宅のワークスペース
森に囲まれた湖畔にある自宅のワークスペース。現在ではリモートでの仕事もほとんど手放して本の執筆に専念している

生活にお金をかけると人生がつまらなくなる

振り返れば、大きなものを「手放す」決断は移住以外で2度あります。

1度目は、実績が認められて30代半ばで別のレコード会社にヘッドハンティングされた後のこと。そこで部長職を任されたものの、まったく向いていない仕事で心身が壊れたため、会社に降格を申し入れて現場のプロデューサーに戻してもらいます。するとその直後に、才能あふれる2組のアーティストと出会ったのです。彼女たちは後にアルバム年間ランキング1位・2位を占めるスターになりました。

2度目は、移住後10年目のこと。得意なアウトドア関連の仕事以外にも、複数の会社役員や顧問など、多くの仕事を請け負い、いつの間にか収入が過去最高を記録していました。その半面、仕事に忙殺され、大好きな釣りの機会が激減していた。これでは湖畔に移住した意味がないと、2019年に仕事をすべて手放して作家業に専念すると決断。一時的に収入は減りましたが、その後に著書が連続でベストセラーになって元通りに。さらに、念願の第一子が生まれ、湖と釣り以上に大切な存在ができたのです。